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日本のヒップホップでメシを食べようと思ったらまず観たい映画

SR サイタマノラッパー
SR サイタマノラッパー

勝負する度胸すらなく不戦敗

この作品を観てもなお、「日本のヒップホップで成功したい」と思えるだろうか。たぶん、そこがポイントになっている。

辛そうで、苦しそうなことは、なるべく見ない(やらない)ようにして、「ぬるま湯」につかっていたい。でも、成功もしたい。こんな都合のいい「ぬるま湯」に浸かっている「夢追い人」を、うまく表現した映画が、この「SR サイタマノラッパー」だ。

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(2010/05/28)
駒木根隆介、みひろ 他

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ヒップホップで成功する、というのは、「ヒップホップで生活していく」ということ。もっと具体的にいえば、ヒップホップを「生活費」に変えると言ってもいい。いわゆる、「メイク・マネー」というやつだ。

自分の「曲」「パフォーマンス」「サービス」。そのすべてに値段をつけて販売しながら、死ぬまで生活費を稼ぎ続ける。これが、ヒップホップで「食べていく」ということなのではないだろうか。

だから、自分の「曲」「パフォーマンス」「サービス」を、お客さんに「欲しい」と思ってもらわなければならない。需要なければ、値段がつかないし、商売にならないのだ。

ところが、主人公たちが「需要の創出」にエネルギーを注いでいるシーンは、一切なかった。すべてが「自己都合」である。

とくに生活に困ってない。だからまだ仕事もしなくていい。劇中で、そんなニュアンスのセリフがあった。彼らには、「メイク・マネー」する気がない。それは自力で生きていく、という意志の欠如を意味している。

この「ぬるま湯」感は、むかし読んでた「The 3名様」を彷彿とさせる。このマンガも相当ぬるい。

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(2001/03)
石原まこちん、石原 まこちん 他

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生きる源、根幹である、自力で生きていく力(サバイバル能力)を放棄した人間は、飼われたペット同様、ライフラインを他人に握られている。

生殺与奪の権利は、自分の管理下に置いておく。これが、サバイバルの基本であり、この権利を他人に渡すというのは、自殺に近い行為といえる。

ところが、その権利を放棄している本人たちには、その自覚がない。むしろ、無駄にプライドもあるし、虚勢を張って自分を大きく見せようとしている。

でも、潜在意識では、しっかりと、飼われている負い目のようなものを感じているのだ。

だから、自分のすることに自信が持てないし、勝負しなければならない局面で、なにもできずに不戦敗してしまう。

この作品に描かれているのは、自分の力で生きていくことを放棄しているにもかかわらず、ヒップホップで成功したいという矛盾である。

自立していない人間が、どんなことを発言しても説得力に欠ける。まずは自分の足で立つことを最優先に考えるべきだろう。

夢に甘えて、自立を遅らせている夢追い人には、丸裸にされたような気分になるかもしれない。

何もない空っぽの自分。それを認めて、新たなステージへと向かうモチベーションを与えてくれる映画だ。

個人的には、キャラクターのダメさ加減に笑わせてもらった。

収録DVD

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