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エッセイ

はじめて買ったヒップホップのCDは、今でも聴けるBiggieの1st.

The Notorious B.I.G. "Ready To Die"
The Notorious B.I.G. “Ready To Die”

ランキング1位のCDが、どこにもない

はじめて買った本格的なヒップホップ作品は、1994年に発売された、Notorious B.I.G.(ノトーリアスBIG)の「Ready To Die」というアルバムだった。洋楽のランキングを配信するテレビ番組で、「Big Poppa」という曲を偶然耳にしたとき、琴線に触れてしまった。それまで、CDを買う習慣は無かったが、なぜかこのCDは欲しい、と思った。

たしか1995年初頭だった。当時、タワーレコドや、HMV、Virginといった、「大型外資系CDショップ」があったのかどうか、あまり覚えていない。というか、関心がなかった。基本的には、街の商業施設に入っている、「小さなCDショップ」でCDを買う、というのが一般的だった気がする。

地元のCDショップをいくつかハシゴしたが、とうとう目的のCDは見つからなかった。よくよく考えれば、ファミリー層が買物をしに来るような商業施設に、誰も知らない「ヒップホップ」というジャンルのCDが置いてあるとは考えづらい。誰も買いそうにないCDを店頭に並べておく店など、いずれ潰れるだろう。

そして、このアルバムは、店頭には存在しないのではないか? と、直感した。こないだテレビで観た番組では、確かに「首位」を獲得していた。それなのに、どこにも見当たらない。そればかりか、CDショップの店員でさえ、その存在を知らないのだ。

あまりにも何処にもないので、仕方なくショップに「取り寄せ」をお願いした。シートに情報を記載し、店員に渡す。ショップに商品が到着したら、受け取りに行く。CDが届くまで、半月ほど待たされた。だが、手に入った。待たされた期間は、楽しみで仕方がなかったし、商品を受け取ったときはとてつもなく嬉しかった。

半月ほど待たされて得た教訓

得たいのに、得ることができない。そんな経験を経て、「忍耐力」がついた気がした。現代の、「あらゆる情報がすぐに手に入る世界」において、「忍耐力」という能力は手に入りづらい。昔は、自然と備わってくる能力であったが、現代社会で「忍耐」の概念を学ぶには、意識して身に着けなければならない。

「問い」と「答え」の間には、「考える」というプロセスが必要である。ところが、インターネットを経由して、サーバーの「巨大な百科事典」にたどり着けば、「考える」ことをせずに、一瞬で「答え」にたどり着くことができる。そこに「答え」がある、とわかれば、見てしまうのが人間の心理というものだ。

「忍耐力」が欠如していれば、なおさら「自分で考える」ことをせずに、「答え」にアクセスしてしまうだろう。こうして、「忍耐力」と「思考力」の2つを習得する機会を逃してしまうのだ。

作品の内容に衝撃を受ける

手に入れたCDを自宅に持ち帰ると、ひたすら13曲目の「Big Poppa」をリピートした。この曲が目的で買ったわけだし、他の曲は知らなかった。しっとりとした曲調は、妙に気分を落ち着かせる。後に、Isley Brothers(アイズレー・ブラザーズ)の「Between The Sheets」の上にラップを乗せていた、ということが判明する。

●Big Poppa / The Notorious B.I.G.

Isley Brothers(アイズレー・ブラザーズ)のように、甘く濡れているブラック・ミュージックを聴くようになるのは、まだ先の話であった。その入り口が、「Big Poppa」だったのだと、後になって気付くことになる。

●Between The Sheets / Isley Brothers

「Big Poppa」に飽きてくると、次は、前半の数曲を聴くようになった。かなりハードコアで攻撃的な楽曲が立て続けに収録されている。歌詞カードの単語には、「マザーファッカー」連発。対訳を見ると、セックス、麻薬、暴力、金儲けのオンパレード。

サビで「金出しな! 金出しな!(Gimme The Loot! Gimme The Loot!)」なんていう音楽は、今だかつて聴いたことがない。想像していた不良行為をはるかに超えた、超絶なワルがそこにいた。ストーリー・テリングという手法で、物語のような情景描写をラップしている。彼がラップの天才だということは、ほかの多くのヒップホップ作品を聴いて、やっと理解することができた。

●Gimme The Loot / The Notorious B.I.G.

やがて、ダークサイド、「Everyday Struggle」を気に入って、何度も聴いた。精神的にやられているようなラップの内容ではあるが、トラックがかなり好みだった。同系の「Suicidal Thoughts」は、さらにコア。バッド・トリップしたビギーが、電話で友人にネガティブな発言を続け、最終的に銃で自殺するとう内容。重すぎて、あまり聴かなかった。

Everyday Struggle / The Notorious B.I.G.

1曲目で誕生して、最終曲で死を迎える。タイトルの「Ready To Die(いつでも死ぬ準備はできてる)」には妙に納得させられた。DJ Premier(DJプレミア)が楽曲を手掛けた「Unbelievable」は、スタジオでこの曲を数時間聴き続けて、頭の中でリリック(歌詞)が完成。そのまま録ったという、まさに「アンビリーバル」な曲だ。

Unbelievable / The Notorious B.I.G.

あれから20年ほど経った今でも、このアルバムをたまに聴くことがある。これまでに、かなり多くのヒップホップ作品を聴いてきたが、何度もくり返して聴いた作品というのは、そんなに多くない。個人的な思い入れを差し引いても、「Ready To Die」は、名盤である。

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Ready to Die (W/Dvd) (Reis)Ready to Die (W/Dvd) (Reis)
(2007/01/16)
Notorious Big

 

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