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今押さえておくべきSIMI LAB(シミラボ)関連作品10枚

SIMI LAB
SIMI LAB

昔はCDやレコードを買いあさっていて、良盤に出会うと嬉しくなった。好きな曲を何度もリピートしたものだ。

アルバムには「当たり」と「はずれ」があって(もちろん個人の好みによる)、2005年を過ぎる頃には「はずれ」の方が多くなってきた。

自分が好きだった頃のテイストの曲が、年を追うごとに離れていったということだ。そして、つねに進化を続けているヒップホップが、過去の作風に戻ることはもうない。

そんなこともあり、2000年代に入ってから徐々にヒップホップ熱が下がっていった。2010年代になる頃には、ほとんどリアルタイムのヒップホップ作品を追わなくなっていたと思う。

ヒップホップ音楽にハマっていた頃は、J-POPをあまり聴かなかった。むしろ否定的だった。たぶん当時のヒップホップ・ヘッズはみんなそうで、マイノリティのポジションに身を置くことがクールだ、みたいな風潮があったように思う。

アンダーグラウンドの怪しいサウンドに魅力を感じていた。完全に滅菌されたオモチャのようなJ-POP(当時のイメージ)よりも、ノイズにまみれているほうが居心地がよかったのかもしれない。

普通って何? 常識って何? んなもんガソリンかけて火付けちまえ!

これはSIMI LAB(シミラボ)の「Uncommon」という曲のフックで使用された、強烈な印象を残すパンチラインだ。大衆が信じている「普通」や「常識」に疑問符を叩き付ける姿勢にマイノリティを感じ、共感することができた。

個性的な人間はくだらない定規なんかで計ることはできない。ヒップホップは個性的であるほど魅力的な武器となる。彼らがこのフィールドで戦っているのは必然なのだろう。

現代版のアンダーグラウンド・ヒップホップを体現しているのを目の当たりにして、かつてのヒップホップに埋め込まれた遺伝子が今でも受け継がれているのを実感した。SIMI LAB(シミラボ)の今後の活動に期待する意味を込めて、これまでの略歴を紹介したい。

SIMI LAB(シミラボ)の略歴

SIMI LAB(シミラボ)は、2007年にOMSB’Eats(オムスビーツ)とQN(キュー・エヌ)らが結成したヒップホップ・ユニット。

総勢10人近くのメンバーが存在し、クラブやネットを中心に活動していたが、2009年までに脱退が相次ぎ、OMSB’Eats(オムスビーツ)QN(キュー・エヌ)、DJ ATTO(DJアット)の3人が残った。

その後、DyyPRIDE(ディープライド)とフィメール・ラッパーのMARIA(マリア)などが加入すると、突如YouTubeで「Walk Man」を公開し、話題となる。

Walk Man / SIMI LAB

2010年7月、QN(キュー・エヌ)がファースト・アルバム「The Shell」をリリースすると、約半年後の2011年3月にはQN(キュー・エヌ)の別名Earth No Mad(アース・ノー・マッド)名義でアルバム「Mud Day」を発表。

続いてDyyPRIDE(ディープライド)もファースト・アルバム「In The Dyyp Shadow」をリリースする。

そして2011年11月11日、ついにSIMI LAB(シミラボ)名義のファースト・アルバムとなる「Page 1: Anatomy Of Insane」をリリース。

Uncommon / SIMI LAB

リード曲の「Uncommon」は、OMSB(オムスビ)、MARIA(マリア)、QN(キュー・エヌ)、DyyPRIDE(ディープライド)による、それぞれのキャラが際立ったものに仕上がっている。

Show Off / SIMI LAB

彼らのラップを聴いて、「日本語を英語のようにラップする」みたいなフロウが気になった。バイリンガル系で言えば、m-flo(エム・フロー)のVerbal(ヴァーバル)や、Seeda(シーダ)、L-Vokal(エル・ヴォーカル)なんかの系譜なのかもしれないが、ちょっと違う。

押韻に関しては特段こだわっている様子もない。要所要所で踏んでいるが、むしろケツでカッチリ踏むタイトなライミングを避けているようにも思える。トラックにうまくラップを乗せて、グルーブを感じてもらうためのラップ。そんな印象だ。

そして、なぜかQN(キュー・エヌ)のラップから耳ざわりの良いSnoop Dogg(スヌープ・ドッグ)のフロウを感じた。これはラップの「聞こえ」を重視したがゆえの結果なのだろうか。

QN(キュー・エヌ)突然の脱退

グループのアルバムを出した翌月の12月、QN(キュー・エヌ)はセカンド・アルバム「Dead Man Walking 1.9.9.0」をリリース。Earth No Mad(アース・ノー・マッド)名義の作品を入れると3作目。驚異的な制作スピードである。

しかしその半年後の2012年の6月5日、突如ネット上で「Omsbeef」を発表。この曲はタイトルどおり、SIMI LAB(シミラボ)メンバーOMSB’Eats(オムスビーツ)こと、OMSB(オムスビ)へのdisソングであった。アンサーは返さなかったため、beefには発展しなかったものの、QN(キュー・エヌ)はSIMI LAB(シミラボ)を脱退した。

そして何とその10日後に、サード・アルバム「New Country」をリリース。タイミング的にはプロモーションのための戦略的なbeefという線も考えられるが、真相はわからない。

またQN(キュー・エヌ)は、相模原の先輩ラッパーであるSD JUNKSTA(エスディー・ジャンクスタ)のNORIKIYO(ノリキヨ)に対しても牙を剥いている。TwitterでのNORIKIYO(ノリキヨ)のツイートに反応して仕掛けたようだ。

ほんとうはQN(キュー・エヌ)に向けて発言したものではなく、勘違いだったようだが、NORIKIYO(ノリキヨ)はアンサーを返した。結局このbeefは両者がさらに1曲ずつアンサーを返して収束している。

この騒動も、サード・アルバムのプロモーションではないかと疑われそうだが、やはり真相はわからない。

残されたメンバーのソロ作品

2012年10月、OMSB(オムスビ)がリード曲「HULK」を引っさげ、ファースト・アルバム「Mr. “All Bad” Jordan」をリリース。

HULK / OMSB

PVのヤバそうな雰囲気は、Wu-Tang Clan(ウータン・クラン)「Protect Your Neck」を彷彿とさせる。

Protect Your Neck / Wu-Tang Clan

2013年3月、DyyPRIDE(ディープライド)がセカンド・アルバム「Ride So Dyyp」、7月にはMARIA(マリア)がファースト・アルバム「Detox」を発表。残されたSIMI LAB(シミラボ)メンバーの健在ぶりをアピールした。

待望のセカンド・アルバムをリリース

OMSB(オムスビ)、MARIA(マリア)、DyyPRIDE(ディープライド)、JUMA(ジュマ)、USOWA(ウソワ)、RIKKI(リッキ)、DJ Hi’Spec(DJハイスペック)、DJ ZAI(DJザイ)の6MC+2DJという編成で臨んだ新体制。

2014年3月、新生SIMI LAB(シミラボ)はセカンド・アルバム「Page2: Mind Over Matter」をリリースした。

Avengers / SIMI LAB

彼らにとっては、このアルバムも通過点なのかもしれないが、新体制でどこまで続けられるのか、静かに見守っていきたい。

おまけ

個人的にSIMI LAB(シミラボ)は、どこか「OFWGKTA」に近い印象を感じさせられる。OFWGKTAとは、アメリカ西海岸で2007年に結成したヒップホップ・グループ。Odd Future Wolf Gang Kill Them All(オッド・フューチャー・ウルフ・ギャング・キル・ゼム・オール)の頭文字をとったものだが、長いのでOdd Future(オッド・フューチャー)などと呼ばれる。

リーダーのTyler The Creator(タイラー・ザ・クリエーター)は、明らかに「普通じゃない」オーラをまとっている。そして彼がOdd Future(オッド・フューチャー)の楽曲のほとんどを手がけている。

当然、彼に集まってくるメンバーも個性派ぞろい。メンバーたちによる10分超えのマイクリレーは長いが、最後まで見てしまった。

Oldie / OFWGKTA