カテゴリー
映画作品

映画『マンデラ 自由への長い道』に見たリーダーシップのありかた

映画『マンデラ 自由への長い道(Mandela: Long Walk to Freedom)』を観た。この映画はマンデラ氏本人が書いた自伝をもとに映像化されたもの。

アパルトヘイト(人種隔離政策)による人種差別を撤廃し、すべての人間に自由が与えられる世の中を目指す。ネルソン・マンデラはこの信念を生涯貫いた。

映画『マンデラ 自由への長い道』予告編

人種差別についての知識を持っていなくても、この映画を見るだけでだいたい理解できる(ような気になる)。たったの2時間ほどで大まかな南アフリカの歴史が学べるという意味でかなり有意義な映画だった。

映画の概要

ものすごくシンプルに言えば、白人に都合の良いルールによって黒人が牛耳られた世界の話。白人は黒人に政権を取られたら逆に自分たちが迫害されてしまうと考えて黒人に選挙権すら与えなかった。

選挙に勝てば新しいルールをつくることもできる。しかし選挙権が無ければどんなに素晴らしいルールをつくる人がいても投票することさえできない。ルールをつくる政治家たちは、政権を維持するために選挙権を持った白人たちが喜びそうなルールをつくる。そしてますます黒人たちにとって不利なルールがつくられ続けるというサイクル。

守るのもバカらしくなるほど理不尽なルール。もはや守る意味さえ見出せない。というわけで黒人たちは一致団結、みんなでそのルールをシカトするのである。日本風(五・七・五)で言うところの、「赤信号 みんなで渡れば 怖くない」みたいな感じだろうか。

しかし、みんなで渡っても車にひかれる者はいる。大規模なデモの際、白人たちは騒ぎを収拾するために無防備な黒人市民を何人も射殺した。やはり犠牲はつきまとう。それでも理不尽なルールに対する不満は抑えきれずに行動を起こさずにはいられなかったようだ。

反アパルトヘイト運動の首謀者であったマンデラは、やがて逮捕されて終身刑(実際は27年間もの獄中生活の後に釈放)となる。獄中にいてもこのムーブメントの象徴的な人間として絶大なカリスマを持っていたようだ。現に、出所後に南アフリカの大統領に就任するという、つくり話のような実話が存在する。

革命

この映画に描かれているのは革命である。人権が尊重されていない状態から、勝ち目の無い戦力差があっても立ち上がって人権を取り戻す。状況をこれまでと一変させるのだ。

映画『マンデラ 自由への長い道』で示されていたテーマは「平和」(だと思っている)。不当な白人からの支配から逃れ、いずれ形成が逆転したら報復する。普通はそう考えたくなる。しかしマンデラはそれを望まない。報復はさらなる報復を呼ぶ。このやり合いにはキリがない。ムカついた奴らと同じことをやっても、また奴らにムカつかれるだけなのである。

報復という発想は、やった側と同レベルの低次元な考え方だと思う。支配されていた憎しみや痛み。それらを乗り越えて、勇気を持って過去にされた罪を許す(なかなかできることではないが…)。そして共に生きていく。これがより高い次元でのものごとの考え方なのだろう。

しかしそれは理想論であり、実際に怒りや憎しみを消し去るのは難しい。現に、武力なしの戦いに限界を感じて武器を持って立ち上がるシーンもある。これでは「相手を攻撃すること」が目的となり、「平和」という目的がどこかへ行ってしまう。

リーダーのしごと

マンデラは一番大きな「平和」という目的を見失うことなく彼の支持者に示し続けてきた。本当の目的を決して忘れず、多くの行動者に対して最終的なゴールを示すことはリーダーの絶対条件である。これは企業もいっしょで、リーダー(経営者)が変わるだけで「目的」が変わり、まったく別の会社になってしまう。

劇中でもネルソン・マンデラの妻ウィニー・マンデラがリーダー代理として指揮を執るようになると、その目的が武力(テロ行為など)に向く。支持者たちも革命には武力が必要だと思っていた節があり(そう煽ったというのもあるが)、そのみんなの気持ちを代弁するかのようにテロ行為を煽り、半アパルトヘイト運動は過激さを増していった。

支持者たちの気持ちを代弁するのがリーダーの役目ではない。向かうべき方向を示すのがリーダーの役目だ。むしろそれ以外の仕事をしなくてもいい。そして目的を示すことができないリーダーは必要ない。これは政治家にも言えることだ。

日本について

さて、それでは日本のリーダーはいったいどんな目的(ゴール)を私たち国民に示してくれているのだろうか。必要の無いルールや税金ばかりをどんどん増やして国民を管理するのは時代に逆行しているように思う。たくさん増えたルールの管理費(監視、取り締まり、環境整備など)に税金が使われるのはあまり賢明な方法とは言えない。むしろ非建設的だ。

一部のバカがひどい事件を起こすたびにムダなルールが増える。これもアホらしいコストだ。細かいルールをシコシコつくるよりも、まずは大まかでも目的(ゴール)とそれに向かう方向を示してほしい。映画「マンデラ 自由への長い道」を観て、そんなことを思った。

関連リンク