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エッセイ

アーティストとして大成するために、まずは焼酎について学ぼう

このあいだ『情熱大陸』というテレビのドキュメンタリー番組に、May J(メイ・ジェイ)が特集されていた。彼女は、歌手のなかでも歌唱力が高いとされている。カラオケの得点を競う番組では、常に高得点をマークし、女王の座をほしいままにしていた。

また、彼女が歌うディズニー映画『アナと雪の女王』の主題歌が、幅広い年齢層のあいだで大ヒット。これらにより全国的に知名度を上げた彼女だが、彼女自身のオリジナル作品は目立つヒットを出せていないという悩みを打ち明けていた。

この番組を観ていて気づいたことがある。

Jポップ界で長いあいだ第一線で活躍し続けているサザンオールスターズやMr.Children、B’zなどは、逆にカバー曲よりもオリジナル曲のほうが圧倒的に売れている。(むしろカバー曲があるのかどうかすらわからない)

ただ仮に、彼らが他人の曲を歌ったとしても、彼らのキャラクターが維持されることは容易に想像できる。たぶんその辺がオリジナル曲でやっていくためのポイントになっているのではないか。

そう思ったときに、なぜか「焼酎」が思い浮かんだので、焼酎について語ろう。

焼酎甲類と本格焼酎

なにかを分類するとき、「優・良・可」、「松・竹・梅」、「甲・乙・丙」など、基本的に三段階で分類することがよくある。

焼酎もまた、甲類(こうるい)と乙類(おつるい)に分類される。(なお、2006年に焼酎甲類を「連続式蒸留しょうちゅう」、焼酎乙類を「単式蒸留しょうちゅう」という名称に変更された模様)

焼酎甲類

甲類は、極限まで蒸留してできた高純度エタノールを適度に水で薄めた焼酎のこと。鏡月やJINROなどがこれにあたる。

お茶や、その他のソフトドリンクで割ることを目的につくられたもので、言うなれば「万能の焼酎」である。そのため、どんなソフトドリンクでも割ることができる。ウーロン割りや緑茶割り、レモンサワーやカルピスサワー。これらには全て甲類の焼酎が使用されている。

しかし、万能であるがゆえに「個性」が無い。それが焼酎甲類の特徴だ。

焼酎乙類

一方、芋焼酎や麦焼酎、米焼酎などは乙類の焼酎である。基本的にいちどしか蒸留しないため原料の風味やうまみが残るのが特徴で、それぞれに個性(キャラクター)がある。

甲類と乙類を分ける大きなちがいは原料と製法だけで優劣はない。しかし甲と乙という単語の関係上、一般的には「甲類」のほうが優秀な焼酎のような印象を受けてしまう。この認識を回避するために、焼酎乙類を「本格焼酎(ほんかくしょうちゅう)」と称するようになった。

本格焼酎は、それだけで個性(キャラクター)をもっている。だから芋焼酎をウーロン茶で割ってしまえば、個性がぶつかって「芋の風味があるウーロン茶」というワケのわからない酒が完成してしまうのである。

甲類・乙類それぞれの役割

甲類・乙類、それぞれに適した役割がある。甲類には、ソフトドリンクとしてすでに個性のあるものを、ソフトドリンク主体のお酒にする役割、乙類には、キャラクターを持ったそのものを楽しんでもらう役割がある。乙類の焼酎に加えるのは、水(水割り)、氷(ロック)、お湯(お湯割り)で飲むのが一般的だ。

アーティストの甲類と乙類

さて、ここまでつらつらと焼酎の分類に熱を上げたのは、アーティストにもこの法則が当てはまるのではないかと考えたからだ。

アーティストにとっての甲類と乙類について考えてみよう。

甲類のアーティスト

甲類のアーティストはいわゆる「スタジオ・ミュージシャン」のようなもの。個性を極限まで排除することで、あらゆるアーティストと融合することができる。主となるアーティストの色を維持したまま、高水準の演奏でバックアップするのだ。

具体的には、ソロ・シンガーのバックで演奏しているプロのスタジオ・ミュージシャンや、ボイス・トレーナーなどだろうか。いずれにせよ、基本的に「裏方の仕事」が主となる。

ウーロン茶を立派なウーロン割りにするための焼酎甲類的な仕事が要求されるため、ムダに個性を主張してはいけない。ウーロン割りは、ウーロン茶という主役がいるからこそ成り立つお酒なのだ。

乙類のアーティスト

焼酎乙類は、別名「本格焼酎」という。だから乙類のアーティストは、本格アーティストである。本格アーティストは、持ち味である個性(キャラクター)を強みにして活躍するアーティストだ。

たとえば、どこかのお店に入ったときに聞こえるBGMで、まだ聴いたこのない曲がオンエアーされていたときに、一発でそのアーティストだとわかる。そんなニュアンスだ。

声や歌い方ですぐに特定できるほどアーティストの個性が強い。このような個性の強いアーティストは、モノマネされやすいのも特徴だ。

アーティストとして成功するには

もしアーティストとして商業的に成功したいのであれば、まず最初に「甲・乙」を選択しておく必要がある。選んでおかないと無駄な時間を消費してしまい、最終的にどちらにもなり損ねてしまうかもしれないからだ。

甲類のアーティストとして、どこにでも適応できる「無個性だが洗練されたスキル」を極めるか、乙類のアーティストとして、自分自身の個性ひとつで勝負するために「オリジナルのキャラクター」を確立するか。

アーティストを目指すのであれば、自分が主役として活動したいと思っているものだ。いきなりスタジオ・ミュージシャンを目指すのは少数派だろう。

いずれにせよ、この選択を迷っていると、どちらも選択できずに終了してしまう。それだけは避けたい。

キャラクターの明確化

曲を聞いただけで、本人の姿が頭に浮かんでくるのであれば、その人のキャラクターは確立している。スタジオ・ミュージシャンではなく、自分自身をアーティストとして売り込みたかったら、この状態を目指さなければならない。

キャラクターとは言っても、本人であることに変わりはない。ここで言うところのキャラクターの確立とは、演奏方法の型(スタイル)を細部まで徹底的にこだわって決めていく、ということだ。

シンガーなら、発声方法、発音方法、ファルセット、裏声、ビブラートの形、歌い方のクセなど、素人が気にしないような部分まで「自分ルール」を決めておく。これが、いわゆる個性(キャラクター)となる。

とうぜん、もともと特異な声の持ち主は、その時点で他を圧倒する個性(キャラクター)を備えており、かなりのアドバンテージがあるのは言うまでもない。

キャラ確立からのスキルアップ

キャラクターの確立は骨が折れる作業だ。しかしキャラクターのビジョンが明確でないまま、スキルアップにエネルギーを投入してしまうのは避けたほうが良い。なぜなら順番がちがうからだ。

自分の表現をするのであれば、「確立したキャラクター」がするべき表現を実現するために、相応のスキルが必要になる。そこで必要なスキルを身につけるのである。

これからアーティストとして大成したい人は、キャラクターの設定・確立に尽力すること。これが成功するために、まず、やるべきことだ。

とは言え、強い個性というのは練習で身に付くものではない。天性も大きく関わってくるだろう。また、生き方や価値観、人生の行動指針によっても左右される。

つまり、乙類の「本格アーティスト」として大成するには、それなりの資質が問われるのだ。

言ってしまえば身もふたもない話である。

だからこそ、自分を客観視したときに個性が思い浮かばないのであれば、スパっとあきらめて、すみやかに「スキルを提供する側」に回ってしまうのも賢明な選択だと思う。

まとめ

焼酎で無理やり説明してみたが、とうぜん焼酎と人間はちがう。でも役回り(目的)をまず決めておくと、スムーズにことを進められるのは間違いない。

「まず大きな決断をしてから行動をはじめる」

たまたま情熱大陸を観て、この結論に至った。