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琴線にふれた作品

Shing02(シンゴ・ツー)が「日本国憲法」という曲を無料配信

日本国憲法

2015年5月7日。Shing02(シンゴツー)は「日本国憲法」という楽曲の無料配信をスタートした。

この曲は全6章(「序章」「植民地主義」「明治維新~大日本帝国憲法」「第一次世界大戦~太平洋戦争」「日本国憲法」「現代」)からなる大作で、演奏時間は22分にもおよぶ。

日本国憲法についてラップしているのはタイトルを見れば明らかだが、すごいのは歌詞を見ながらラップを聴けば、日本国憲法がどのように生まれたのかがわかるところである。(おそらくヘタな関連本を読むよりもわかりやすい)

この楽曲が完成するまでに1年もかかったというが、そんな大作を無料で配信したのは、商売を抜きにしてでも伝えたいメッセージがあったのだろう。

歌詞のなかに以下のような一文がある。

憲法は解釈で軍を動かすためにあらず

この一文で、Shing02(シンゴツー)が「集団的自衛権に反対」の立場をとっているのがわかる。国民が自由であり平和であるためには軍隊など必要ない。そういうスタンスだ。

生い立ちから説明することによって日本国憲法がつくられた目的を明確化し、そのうえで現政権による憲法解釈に対して異を唱えている。この点はとても筋が通っていると思う。

ヒップホップはダンスミュージックだけのものではない。彼のラップは私たちが暮らしている日本という国について関心を持つ機会をあたえてくれる。教養が身につくという意味で、聴いて損のない作品だろう。

楽曲がダウンロードできるページ

ダンスミュージックの範疇から外れたラップの意義

Shing02(シンゴツー)というMCにとってのラップとは、己の信念や哲学を多くの人に伝えるためのツールとして機能しているようだ。言葉遊びを楽しむ押韻重視のラップとはまるで違う。

とくに今回の曲「日本国憲法」に関して言えば、冒頭をのぞいて押韻が最少限におさえられている。代わりに教科書に出てくるような言葉が埋め尽くされていて、まるで音をたのしむ類のものではないような印象だ。

こういったシリアスなテイストの楽曲は、ダンス・ミュージックと無縁かもしれない。しかしこのような、ヘッドフォンで聴くヒップホップがあって然るべきだと思う。

かつてKRS-One(ケアレス・ワン)はラップに「エデュテイメント(教育とエンターテインメントを合わせた造語)」という概念を付加した。リスナーはエンターテインメントであるラップによって教養を学び、新しい思考・視野を手にいれるというのだ。

ラッパーは自分の思想・哲学を自由にリスナーに向けて訴えることができる。だからこそ発言には細心の注意を払わなければならないのである。

Web 2.0以降のコール&レスポンス

Shing02(シンゴツー)は無料配信曲「日本国憲法」で、ある立場に立ったうえでメッセージを送った。この立場をとるための明確な論拠も提示している。しかしリスナーは無警戒にラッパーの言葉を鵜呑みにしてはいけない。たとえそれが理にかなっていたとしても、だ。

いちどは自分の頭で咀嚼して、自分なりにどう思うのかを考えてみる必要がある。その結果、(ラッパーの意見に)賛同できるのか、または異論を唱えるのかを自分の頭で決定するのだ。

「俺はこう思ってるけど、お前らはどう思ってる?」

ラッパーはリスナーの反応を期待している。いまはウェブの進化によってリスナーからの発信も容易にできる。「Web 2.0以降のコール&レスポンス」は、リスナーが積極的にレスを発信していくことで議論を深めていけるのである。

まとめ

集団的自衛権の問題はデリケートなので、個人的には賛成も反対もしない。むしろこの問題がうやむやなまま議論がつづいて、問題をいつまでも先延ばしになればいいと思っている。

TPPとかもそう。ずっと決まらなくていい。どっちになってもメリットとデメリットがあるのだから、なにも決まらないでグダグダやっている「モラトリアム」こそが平和であるという考えだ。

問題を先送りにしていたらなんの解決にもならないという意見もあるだろう。しかし、そもそもどのような視点(功利主義的視点、倫理的視点など)で物事を見るかによって最適解が変わる性質の問題には、すべての人が同時に納得する答えなど存在しない。

だからこそ結論に決してたどり着くことのない議論を永遠に続けていればいいのでは? と思った次第だ。

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