Wu-Tang Clanを時系列に追っていこう
過去のHip Hop作品をさかのぼっていけば、必ずたどり着くのがWu-tang Clan(ウータン・クラン)というグループ。彼らはStaten Island(スタッテン島)出身の個性派MC軍団。(スタッテン島の場所については「Hip Hopが誕生したサウス・ブロンクスってどこ?」を参照)
とにかく1990年代前半から中盤にかけの”WU-旋風”はすさまじいものだった。その楽曲をすべてプロデュースしていたのはメンバーの総帥RZA(レザ)。メンバーのソロ作品まで手がけるハード・ワーカーだった。
1990年代初頭のサウンド・プロダクションは、Native Tongues(ネイティブ・タン)一派をはじめ、JAZZやFUNKなどをサンプリングするのが主流だった。その概念を完全に破壊したのがRZA(レザ)。ホラー映画のような怪しいサウンドを持ち込んだ張本人だ。
自主制作で発表したシングル「Protect Ya Neck」
1993年に自主制作で発表したシングル「Protect Ya Neck(自己を防御せよ)」が話題となる。不穏な空気ただようトラック上でメンバー総出のシリアスなマイクリレー。エネルギーに満ちあふれた作品だ。このときは、まさに「謎の集団」とわんばかり。メンバーのGhstface Killah(ゴーストフェイス・キラー)は、顔にストッキングをかぶって素顔を見せなかった時期もあった。
●Protect Ya Neck / Wu-tang Clan
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=_GDPZpRmTg0[/youtube]
Loud(ラウド)との契約
この曲を契機に、レコードレーベルとしては無名だったLoud(ラウド)と契約。RZA(レザ)の好きにさせてもらうことが契約の条件だったらしい。それが奏功したのか、「Wu-Tang Clan Ain’t Nuthing Ta F’Wit」、「C.R.E.A.M」と立てつづけにシングルがヒット。ラウドとしてはウータンがはじめてのヒット・グループとなった。
後に、Mobb Deep(モブ・ディープ)やThe Beatnuts(ビートナッツ)、Big Pun(ビッグ・パン)といったスターを擁するレーベルとなったのは言うまでもない。
ファースト・アルバム「Enter The Wu-Tang (36 Chambers)」
そしてとうとう、1993年の暮れにファースト・アルバム「Enter The Wu-Tang (36 Chambers)」をリリースする。タイトルからもわかるとおり、香港のカンフー映画「燃えよドラゴン(Enter The Dragon)」、「少林三十六房(36 Chambers)」にインスパイアされた作品であるのは間違いない。
そして、随所にそのテイストが散りばめられている。先述のシングル作品のほか、アルバムに収録されている作品のすべてが一貫した世界観をもっている。アルバムを通して1本スジの通った作品となっている。
これもすべてRZA(レザ)がプロデュースした結果だろう。このアルバム1枚で、Hip Hopシーンを牽引する存在となった。
Enter Wu-Tang (1993/11/09) Wu-Tang Clan |
ソロ・アルバムでもWU旋風
米Hip Hop雑誌『The Source』でマイク4.5本を獲得した「Enter The Wu-Tang (36 Chambers)」。その勢いは衰えず、メンバーのソロ作品を量産していった。
Method Man(メソッド・マン)
まずは、リードMCであったMethod Man(メソッド・マン)。アルバム「Enter The Wu-Tang (36 Chambers)」のなかにも「Method Man」というソロ曲がある。彼をかなりプッシュしていたのだろう。
たしかに、マリファナでしわがれた声と独自のフロウはメンバーの中でもひときわ目立つ。1994年にアルバム「Tical」でソロデビュー。
●Release Yo’ Delf / Method Man
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=kZlhbx3yGkQ&ob=av2e[/youtube]
シングル「Release Yo’ Delf」、「Bring The Pain」、「I’ll Be There For You」あたりを押さえておけばいいだろう。
Tical (1994/11/15) Method Man |
Ol’ Dirty Bastard(オル・ダーティ・バスタード)
次にリリースしたのが、個性派ウータン内でもさらに奇人として知られているOl’ Dirty Bastard(オル・ダーティ・バスタード)。発狂しているとしか思えないRAPが魅力(!?)のMC。1995年にアルバム「Return To The 36 Chambers: The Dirty Version」をリリースした。
●Brooklyn Zoo / Ol’ Dirty Bastard
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=kcsEop0NPGM&feature=related[/youtube]
上記はシングル「Brooklyn Zoo」。完全に狂ってるとしか思えない。いくらHip Hopの世界でも、ここまで”イカれてる、イッちゃってる、異ノーマル”な人はほとんどいないだろう。
Return to the 36 Chambers (1995/03/28) Ol Dirty Bastard |
Raekwon(レイクォン)
そして次は、Raekwon(レイクォン)。ウータン・メンバーの中では一番”まとも”に見える。だが、確かなスキルをもったMCだ。1995年にアルバム「Only Built 4 Cuban Linx…」をリリース。このアルバムは名作。当サイトでもオススメの作品だ。
Ghostface Killah(ゴーストフェイス・キラー)がまるで自分のアルバムかのように、半数以上に参加している。しかし、これは紛れもなくRaekwon(レイクォン)のアルバムである。
●Ice Cream [Feat. Ghostface Killah, Cappadonna & Method Man] / Raekwon
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=j05fJPvfJ0g[/youtube]
2番目にラップしている緑のシャツを着ているのがRaekwon(レイクォン)だ。サビのMethod Man(メソッド・マン)と、1番手のGhostface Killah(ゴーストフェイス・キラー)が目立ちすぎているのが気になる。収録曲は、「Rainy Dayz」、「Criminology」、「Heaven & Hell」などを押さえて置こう。
Only Built 4 Cuban Linx (1995/08/01) Raekwon |
Genius(ジーニアス)
その3ヵ月後には、Genius(ジーニアス)がアルバム「Liquid Swords」をリリース。彼はウータン唯一のリリシストとして知られている。詞的センスが極めて高く、かなりの切れ者MCである。
●I Gotcha Back / GZA (Genius)
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=pSQieA85arg[/youtube]
渋い声をしているが華がない。他メンバーの圧倒的な存在感に比べると地味な存在に感じてしまうのはそのため。ところが、RAPでいえば最もスキルの高いMCなのも事実である。
Liquid Swords (1995/11/07) Genius、GZA 他 |
Ghostface Killah(ゴーストフェイス・キラー)
そして1996年、満を持して登場したのがGhostface Killah(ゴーストフェイス・キラー)のソロ・アルバム。豪快なRAPを存分に味わうことができる。なかでも、ファースト・シングル「Daytona 500」がダントツでいい。
●Daytona 500 [Feat. The Force M.D.S, Cappadonna & Raekwon] / Ghostface Killah
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=jAyciekIPBo[/youtube]
主役の2番手、Ghostface Killah(ゴーストフェイス・キラー)のRAPがカッコよすぎる。日本のアニメ「マッハGoGoGo(米題:Speed Racer)」を使用したミュージック・ビデオもなぜか合っているように見える。
Ironman (1996/10/29) Ghostface Killah、Mary J. Blige 他 |
セカンド・アルバム「Wu-Tang Forever」
各自のソロアルバムが好調なセールスをあげる中、とうとうウータン本体がセカンド・アルバムをリリース。1997年のことだ。ファースト・アルバムではほとんど参加していなかったCappadonna(カパドンナ)とMasta Killa(マスター・キラ)が本格的に参加している。
2枚組み30曲近くもある大ボリュームのセカンド。これまでの集大成といっていいだろう。とくに全員マイクリレーの「Triumph」がすばらしい。B級映画っぽさがうまく表現されている。
●Triumph / Wu-tang Clan
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=isumZjs3dKA[/youtube]
Inspectah Deck (インスペクター・デック)からはじまって、Raekwon(レイクォン)まで、スリリングなマイクリレーが楽しめる。とくに、ゴールデンアームことU-God(Uゴッド)のカットがシュールすぎる。
Wu-Tang Forever (1998/10/20) Wu-Tang Clan |
セカンド・アルバム以降の活動
セカンド・アルバム「Wu-Tang Forever」を発表以降も、かなりのハイペースでメンバーのソロ・アルバムがリリースされていた。ウータン本隊も、2000年にはサード・アルバム「The W」、翌2001年には4作目「Iron Flag」を発表している。
サード・アルバム「The W」
過去2作品を踏まえたうえでこの作品を聴けば、進化の過程を実感できる。ここがひとつの到達点なのかもしれない。人気によるマーケットの拡大により、カジュアル・リスナーの耳に迎合している感がある。コアなリスナーは過去の作品を支持するだろう。
●Protect Ya Neck (The Jump Off) / Wu-Tang Clan
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=s6YxhbQn-ZA[/youtube]
サード・アルバム「The W」からの先行シングル。身にまとっているものも垢抜けている。彼らのキャリアが成熟期に達しているのがわかる。
●Gravel Pit / Wu-Tang Clan
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=InyoltD1jIw&feature=related[/youtube]
こちらもサード・アルバムからの1曲。200万年前にタイムスリップしたという設定。毛皮ファッションでのRAPが斬新。最後の格闘シーンが意味不明でいい。
W (2000/11/23) Wu-Tang Clan |
フォース・アルバム「Iron Flag」
前作からわずか1年でリリースしたアルバム。とくに個性もない地味な作品に聴こえてしまうのは気のせいだろうか。アルバムごとにイノベーションを起こしていくのは並大抵ではないのだと感じた瞬間だった。
その後、2007年にも「8 Diagrams」というアルバムをリリース。復活をアピールしたが、リスナーにはあまり響かなかったようだ。
●Uzi (Pinky Ring) / Wu-Tang Clan
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=ygC-jpie9QI[/youtube]
4作目「Iron Flag」からの先行シングル。かつてのチープなB級映画的空気感は微塵もない。洗練されたミュージック・ビデオがそこにあった。個人的にはあの”怪しさ”こそがウータンの本質だと思っていたのだが。
Wu-tang Iron Flag (2001/12/19) Wu-Tang Clan |
おまけ
●Da Mystery Of Chessboxin’ / Wu-Tang Clan
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=kl6jwab3HWk[/youtube]
最後に、邦題「チェスボクシンの闘い」を紹介。ファースト・アルバム「Enter The Wu-Tang (36 Chambers)」に収録されている。これぞウータンの真髄。収監されていて、ほとんど出番のなかったMasta Killa(マスター・キラ)による二刀流RAPがヤバイ。
Legend of the Wu-Tang: The Videos [DVD] [Import] (2006/06/12) Wu-Tang Clan |