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トラックで選ぶ1990年代日本語ラップのおすすめ10曲

今回は、日本語ラップ作品において、トラックが良いと思える楽曲をピックアップしてみる。

ラップ抜きでも聴ける日本語ラップ作品なので、インストにしようかと思ったが、今回はラップ入りバージョンで紹介している。

Don’t Turn Off Your Light (89TEC9 MIX) / Microphone Pager (1995)

Microphone Pager(マイクロフォン・ペイジャー)の作品の中でも飛び抜けて好きな作品。Strech Armstrong(ストレッチ・アームストロング)によるリミックス・バージョンで、Masao(マサオ)、Twigy(ツイギー)、Muro(ムロ)の順でマイクを回す。

キャリア初期はマイクリレーが持ち味だったMicrophone Pager(マイクロフォン・ペイジャー)だったが、この曲が収録されているアルバム「Don’t Turn Off Your Light」(1995年)がリリースされる頃には、Muro(ムロ)とTwigy(ツイギー)以外のメンバーの登場頻度がかなり少ない。

Muro(ムロ)によると、かなりハードな時期での制作で、本人的にはまったくアルバムの完成度に満足していないらしい。しかし、われわれリスナーとしてはジャパニーズ・ヒップホップの歴史におけるマイルストーン的なアルバムとして認識している。

とくにこの「Don’t Turn Off Your Light (89TEC9 MIX)」という曲は、トラックが気持ちが良すぎて何度リピートしたのかわからない名盤だ。

この曲のMuro(ムロ)のヴァースには、ブッダ・ブランドが日本のシーンに登場する以前にNYでの邂逅を認めている。

「Dev-Large(デヴ・ラージ)、DJ Masterkey(DJマスターキー)。明日のコンベンションで絶対会おう!」

これから日本語ラップが熱くなることを予感させるラインではないか。

人間発電所 / Buddha Brand (1995)

この曲のインストが「オマエも この気持ちよさにやられちまいなMix」というのは言い得て妙である。ラップ抜きでも気持ち良く聴けるという意味では、この企画にうってつけの1曲だ。

複数の楽曲をサンプリングして再合成、コラージュ作品として出力された化学反応は、単に純粋な総和ではなく、別次元の存在を生み出した。プロデューサーであるDev Large(デヴ・ラージ)のセンスに業界騒然だったに違いない。

こんなに気持ち良いトラックの上に、ILL過ぎるラップを乗せてしまうのも大胆であな試みである。CQ、Dev-Large(デヴ・ラージ)、Nipps(ニップス)による、無敵の3本マイクの応酬は、奇跡的に生まれたトラックに負けていない。

アウトロのシャウト・アウトでは、かなりの数の同胞たちの名前を読み上げている。日本語ラップのシーンをみんなで盛り上げていこうという気概を感じる。バックに流れている小椋佳「糸杉のある風景」がまるで映画のエンド・ロールのようで、いい感じの余韻が残る。

Double Trouble / Suiken (1999)

N.M.U.(ニトロ・マイクロフォン・アンダーグラウンド)が本格的に始動する前のSuiken(スイケン)のソロ・シングル。Dev Large(デヴ・ラージ)主催のレーベル、El Dorado(エルドラド)レコードからのリリース。

エルドラド・レコードの音源は、そのほとんどがCD化されていない。非売品のカセットテープや、12インチ・レコードなど、アナログ作品のみのリリースだったこともあり、入手困難なものが多い。

だからといって、埋もれていくには惜しい作品ばかりなので、今回この曲を選んだ。

銀河探検鬼 (Remix) / T.A.K The Rhyme Head (1997)

ライムヘッドのシブい声で無感情に淡々と履き出される概念的なラップには、どこか寂しげなテイストを帯びている。「銀河探検鬼 (Remix)」は、そこにアコギのループがどんぴしゃにハマった気持ち良すぎる1曲に仕上がっている。

キングギドラのサイドMCというキャリアを持つだけあり、ライミングのスキルは高い。キングギドラのファースト・アルバム「空からの力」にもただ1人「大掃除」という曲に客演している。

その後、コンピレーション・アルバム「続悪名」に「偽装工作」というドープな曲を発表し、Zeebra(ジブラ)を中心に結成されたアーバリアンジム(UBG)のMCとして活躍した。

もし「銀河探検鬼 (Remix)」路線のテイストが好みなら、「バビロンへ・・・」という曲もオススメなので聴いてみてほしい。

Rollin’ With My Masty, Rollin’ With My Cadi [Feat. Dev Large] / DS455 (1995)

1990年代から本格的なGファンクを追求していたDS455。オジロザウルスのMaccho(マッチョ)も所属していたことがある。この曲はメロウなGファンク・サウンドに日本語ラップが違和感なく溶け込んだ名盤。

Kayzabro(ケーザブロー)、Shalla(シャラ)、Maccho(マッチョ)の3MC時代の曲は、コンピ「The Japanese Hip Hop」シリーズでいくつか聴くことができる。そのすべてでGファンク・サウンドを貫いている。なかでもメンバー最年少であったマッチョのラップが飛び抜けてすごかった印象がある。

このころのDS455作品なら、「Roll In My Night Of Madness」「Since I Lost You (遠い記憶)」、そしてこの「Rollin’ With My Masty, Rollin’ With My Cadi」の3作がベストに挙がる。

何よりも、1995年の段階でDS455にDev Large(デヴ・ラージ)がしっかりと噛んでいるところがすごい。

オ・ワ・ラ・ナ・イ (OH, WHAT A NIGHT!) / キミドリ (1996)

Kuro-Ovi(クロオビ)とクボタタケシによる明暗の別れたラップがコントラストになっている。

元ネタは、The Chequers(ザ・チェッカーズ)「Undecided Love」と、The Four Seasons(ザ・フォー・シーズンズ)「December, 1963 (Oh, What a Night)」。どこかノスタルジックでサイケな感覚を覚えるトラックは、一度聞くと病みつきになってしまう。

この異様なサウンドにマッチできるのは、Kuro-Ovi(クロオビ)とクボタタケシがそれぞれ異なる個性的なラップ・スタイルを持っているからに他ならないのだ。

サマージャム ’95 / スチャダラパー (1995)

スチャダラの定番夏ソング。力の抜けたスタイルが共感できる作品。この曲と夏が脳に関連付けられている1990年代のヒップホップ・ヘッズは多い。

久々に聴いたら笑えるほどアニとボーズの掛け合いが絶妙だった。リリックはDJのシンコも含めて3人で書き進めていくというから、コンビネーションも計算され尽くされているのだろう。

既に早まる死期 (四季)(手記) / 四街道ネイチャー (1998)

どこか懐かしく美しい旋律。これほどサンプリング・センスが光るトラックはそうそうないだろう。まさにトラックだけでも聴ける今回のプレイリストにぴったりの作品。

HAN TO-ME (Boa Viagem Remix) / Muro (1999)

ピアノとストリングスの旋律が切ないイメージを想起させる。ビートがなければおおよそヒップホップのトラックとは思えないようなトラックに。Muro(ムロ)のラップが乗る。

これこそインストだけでも十分に楽しむことができるトラックではないだろうか。

ブッダの休日 / Buddha Brand (1997)

最後はやはりこの曲。「チルする」というのは、こういう曲を聴きながら身体をリラックスさせることなのだろう。CDのリリースでいうと、「人間発電所」、「黒船」ときて、この「ブッダの休日」だった。

当時はハードコアな日本語ラップを聴けると思っていたから肩透かしをくらった記憶がある。でも、いま考えると「ブッダの休日」は今でも聴きたくなる”息の長い”作品だった。

この9分近くもある作品。シングルCDの1曲目からインストを聴かせるという大胆さ。このあたり、トラックに相当の自信があったのだと推察される。

まとめ

作品をトラックで選ぶことにより、純粋に音として心地よいものが浮かび上がってきた。この選別方法は、英語の歌詞がわからないのにアメリカのヒップホップを聴くときに役立つ。

トラックがいいと思って聴いていたアメリカのヒップホップ作品のリリックを、後で知って後悔することもあった。こんなエグい歌詞なら知らなくてよかった、と。

今回は日本語ラップ作品でトラック先行型の選曲をやってみた。もっと紹介したい曲はあったが、動画が上がってなかったり、風呂敷を広げすぎて散らかりそうだったので、別の機会に譲ることにした。

トラックリスト

今回、紹介した曲のリストと、収録アルバムのAmazonリンク(アナログのみの場合はリンクなし)。

  1. Don’t Turn Off Your Light (89TEC9 MIX) / Microphone Pager (1995)
  2. 人間発電所 / Buddha Brand (1995)
  3. Double Trouble / Suiken (1999)
  4. 銀河探検鬼 (Remix) / T.A.K The Rhyme Head (1997)
  5. Rollin’ With My Masty, Rollin’ With My Cadi [Feat. Dev Large] / DS455 (1995)
  6. オ・ワ・ラ・ナ・イ (OH, WHAT A NIGHT!) / キミドリ (1996)
  7. サマージャム ’95 / スチャダラパー (1995)
  8. 既に早まる死期 (四季)(手記) / 四街道ネイチャー (1998)
  9. HAN TO-ME (Boa Viagem Remix) / Muro (1999)
  10. ブッダの休日 / Buddha Brand (1997)