バイリンガルMCには双方の立場を考慮したメッセージを伝えられるメリットがある
バイリンガルMCのShing02(シンゴツー)は、英語と日本語を混在させない。完全に英語の曲と、完全に日本語の曲に分かれている。それが彼のこだわりなのだろう。そもそも「誰に伝えるのか」を考えてから作品の制作をはじめるのであれば、言語を固定するのは至極真っ当なことである。
同じくバイリンガルによるRAPスタイルが印象的なm-flo(エム・フロー)、Buddha Brand(ブッダ・ブランド)などは、曲中に英語と日本語がぐちゃぐちゃに入っている。彼らはおそらく「メッセージ」よりも「流れ」や「聞こえ」を重視しているのだろう。言葉遊びを楽しむと同時にビートに乗せるRAPもひとつの楽器として聴くことができるのが彼らのスタイルなのだ。
そもそもShing02(シンゴツー)はポエトリー・リーディングMCのパイオニアのような存在である。すなわち、物語を読み聞かせるようにRAPすることを旨としたアーティストなのだ。読み聞かせる対象に対してしっかりとメッセージを汲みとってもらうためには、おなじ言語でしっかりと理解してもらう必要がある。
たとえば英語圏に対して発したメッセージがこの曲だ。
●Pearl Harbor (English Tojo Mix) [Feat. Bas-1] / Shing02
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=P2xlXpeTgP0[/youtube]
この「東條英機(トウジョウ・ヒデキ)ミックス」と冠された英語版には、日本兵がなぜアメリカの国土に爆弾を投下したのかを説明している箇所がある。
I’m attacking for Emperor Hirohito
(私がアメリカを攻撃するのは昭和天皇のためだ)
当時の日本国への忠誠度の高さは異常とも感じられる。己の命の価値を上回る愛国心は現在の日本ではおよそ考えられない。だれだって死にたくない。だが、その「空気」に抗うことができない心境は理解の範疇を超える。
いまでいうところの「ブラック企業の社員」のようなものか‥。
●Pearl Harbor (Japanese) / Shing02
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=BmbCuuPNgnc[/youtube]
こちらは日本語版。単に英語版を直訳したわけではなく、日本人向けのリリックになっている。あくまで日本人の立場から見た戦争。さらに敗戦から歴史を書き換える作業まで言及している。
収録アルバム
PEARL HARBOR/JAPONICA CD(10TH ANNIVERSARY EDITION) (2007/12/07) SHINGO2:DJ SHIN |