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K Dub Shine(ケーダブ・シャイン)が説明不要な理由

理由
理由

K Dub Shine(ケーダブ・シャイン)のサード・アルバム「理由」は、かなり自分をさらけ出した内容に仕上がっている。まるで自分を「棚卸し」しているようだ。この作品では、過去の自分についてラップしている曲がいくつかある。

具体的には、「理由」「ガキでいんのもラクじゃねェ」「来たぜ」「運命」の4曲。これらを順番に聴いていけば、K Dub Shine(ケーダブ・シャイン)という人間が、どういう人生を歩んで来たのかが理解できる。つまり、作品が自分の履歴書のような役割を果たしているのだ。

自分を表現した作品さえあれば、自分のことをわざわざ説明する必要はない。これは誰にでも言えることだ。作品というと大げさに聞こえるが、それが仕事の実績であったり、個人的な日記であっても、自分のこと表現するものであれば、その役割を果たす。

K Dub Shine(ケーダブ・シャイン)はヒップホップ作品だった、というだけである。では、彼の歩んで来た道のりを見ていこう。

幼少期をラップする「理由」

アルバム・タイトル曲の「理由」では、自分のルーツである幼少期のエピソードを淡々とラップしている。交通事故や難病で、闘病生活が長かったという。自分を大きく見せるヒップホップというフィールドで、あえて体が弱かったという弱みを見せている。

●理由 / K Dub Shine
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=Vs6KLwUjbB8[/youtube]

少年期をラップする「ガキでいんのもラクじゃねェ」

渋谷で過ごした少年期のエピソードをラップした「ガキでいんのもラクじゃねェ」は、10代のK Dub Shine(ケーダブ・シャイン)を表現している。

小学生時代に先生から体罰を受けて、大人への不快感を抱く。原チャリを盗んで、隣の学校とケンカした中学生時代。そのへんのオッサンをカツアゲして、買い物したりと、かなり悪さを働いていたようだ。(真偽は不明)

高校に入学するも、すぐに不登校になった。未来に絶望し、希望が持てずに迷走する。やがて、自分の行動を疑問に感じるようになる。ずっと考え込んだ結果、晴れて本当の自分を発見できた。そんな内容の曲。

アメリカ滞在期をラップする「来たぜ」

高校をドロップアウトしたあと、いろいろ考えたあげく、渡米を決める。この曲「来たぜ」では、アメリカでヒップホップに影響を受けたときのエピソードが語られている。

フロリダからカリフォルニア、さらにフィラデルフィアで10代後半〜20代前半を過ごしたという。遊びの延長でヒップホップの活動をはじめたのもこの頃らしい。

やってみた DJの練習
で学んだのはライムのセンス
自分でやるうち
独自のビジョンを確かめたくて書いた日本語
一年かけてやっとできた
人に聞かしたミュージックセミナー
そんとき初めて出会ったブッダ
バトルは俺が完全に食った

その中には、ラップを人前で披露したラップセミナーでBuddha Brand(ブッダ・ブランド)と対戦し、勝利を収めたというこのラインは、Buddha Brand(ブッダ・ブランド)のDev Large(デヴ・ラージ)とのビーフ(ラップバトル)を生んだ。(詳しくは、「日本初!インターネット上で繰り広げられたビーフ」を参照)

Pagerと同時に改正開始
ラップやりにくい体制廃止
そこ目指して久しぶりに帰国

さらに、Microphone Pager(マイクロフォン・ペイジャー)が「改正開始」というシングルをリリースしたのにかけて、日本語ラップを改正するために帰国した、というエピソード。これも、後付けなのかはわからないが、最後に、

確かそんな感じだったような記憶

という最強の免罪符が放たれて、曲は終了している。

帰国後、日本でのヒップホップ活動を語る「運命」

アメリカから帰国したK Dub Shine(ケーダブ・シャイン)が、日本に活動拠点を移してから現在までの活動をラップしている。この曲が、日本でのヒップホップ活動をまとめた、K Dub Shine(ケーダブ・シャイン)のバイオグラフィとしての機能を果たす。

帰国がしたのが1990年代前半だとしても、10年ほどの期間を1曲でやるとなると、かなり早足で駆け抜ける必要がある。この曲では、活動時期をヴァースで区切り、大きく3つのフェーズに分けている。

大まかな「運命」の構成内容

  1. 帰国したK Dub Shine(ケーダブ・シャイン)がキングギドラを結成
  2. DJは音信不通、相方が別プロジェクトを開始するなど事実上解散
  3. ソロ活動開始、アトミックボムを立ち上げて大成功!

●運命 / K Dub Shine
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=2aVjSrikKLs[/youtube]

すべては、K Dub Shine(ケーダブ・シャイン)の主観に基づいた物語となっているが、この曲を聴けば、K Dub Shine(ケーダブ・シャイン)が日本でしてきた大まかな活動の歴史が把握できる。

この記事の最後に、「運命」のリリックを記載しておいたので、詳しい内容が知りたい方は参考にしてほしい。

アルバム「理由」に収録された他の曲

K Dub Shine(ケーダブ・シャイン)は、惜しげもなくアルバム「理由」に自分自身をぶち込んだ。上記では、彼の「生い立ち」に焦点を合わせて曲を紹介した。しかし、生い立ちや行動履歴だけでは、人間の本質を理解したとは言えない。

趣味、趣向、思想、概念など、あやゆる角度から判断してこそ、人間の本質を推し量ることができるのだ。そして、それらを微塵も恥じることなく自己表現したアルバム「理由」には、生い立ち以外の角度から見たK Dub Shine(ケーダブ・シャイン)が多数収録されている。

そこで、アルバム「理由」に収録されている曲のタイトルと、内容や性質を要約したものをまとめてみたのでご覧いただきたい。

アルバム「理由」のタイトルと性質

番号 タイトル 性質
1 ザ・ラストサムライ 自己紹介&意気込み
2 相ライム性理論 独自に開発した押韻術
3 理由 生い立ち(幼少期)
4 なんでそんなに バイリンガルMC批判
5 正真正銘 影響を受けた作品を紹介
6 今なら 母への感謝
7 ほんとあの頃が [Feat. DJ Oasis & 童子-T] バカやってた頃の回想
8 渋谷のドン 渋谷を徘徊しながら自己紹介
9 ガキでいんのもラクじゃねェ 生い立ち(少年期)
10 来たぜ 生い立ち(渡米期)
11 都会の街 [Feat. T.A.K.The Rhhhyme & 三善善三] 都会のイメージを描写
12 運命 生い立ち(帰国後の活動)
13 オレはオレ オレはやりたいことをやる
14 不思議じゃない 父との思い出
15 勝利への道 カネの亡者批判

ものの見事に、すべての楽曲で自分自身のことが語られている。1曲1曲は、彼のある一部分を映し出しているに過ぎない。すべての作品が集合したもの(作品群)を体感することで、彼の本質となるコンテキストが浮かび上がってくるのである。

なにかを理解したいときは、部分を知るのではなく、全体像を把握しなければならない。つまり、時系列を示す歴史(ストーリー)の把握と、作品群(本質の欠片の集合体)である。

歴史(ストーリー)と作品群(アウトプット)を把握しないで、何かについて論じてしまうのはリスクが高い。誤解を生むからだ。自分の意見に責任を持つのであれば、最低限の根拠(歴史と作品群)を備えておく必要があるのだ。

K Dub Shine(ケーダブ・シャイン)は歴史と作品群を提示することで、自分を定義した。彼は自分の作品群をもっているからこそ「説明不要」なのだ。

本日の1枚

理由 SPECIAL EDITION 理由 SPECIAL EDITION
(2005/11/02)
K DUB SHINE、T.A.K.The Rhhhyme 他

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「運命」のリリック

久々に帰ってきたこの東京
特に昔と変わってない状況
ほとんどのラップが踏めてない
あっちとのギャップも埋めてない
メジャーフォース(※1)にスチャダラ(※2) アパレル系
そん時のことなら語れるぜ
コンセプト ライム ボキャブラリー
知ってるフロウで粗末な詩
あとそん時どっがで
ヒデ(※3)とキハに俺の踏み方見せといた
すげえ気に入ってたぜ 二人とも
意味ある韻踏んだ歌にこそ
魂があるのそこで証明し
俺のビジョンにも共鳴し
そのあとヒデもオークランド来て
うちの近所ドープなの見て
まず二人でK.G.(※4)結成決定
自分の言葉でやんのを徹底
ぜってえDJ今やんのは
コイツだけと会わされたオア(※5)
いつでも三人でツルんで移動
あとよく一緒にいたのイノ(※6)
そこらで誰もが俺らの噂
みんな気付いた韻の上手さ

[Hook]

[Verse 2]
どこもその頃は払ってない金
特に一昔前のP-Vine(※7)はね
そんで今度オアが音信不通
やるように説得 少しずつ
なんとか出した『空からの力(※8)
で結局CD発売日来たら
渋谷の店じゃ全部チャート一位
地元にいる奴らちゃんと支持
ケンボー(※9)がやったオアの替わり
全国俺らだけで回り
そんでシングルや『影(※10)』も売れ
やっとまともな金をくれ
ほらやっぱ出た方向性の違い
よくある事 どこでもみたい
誰のせいかなんて別に言う気ねえけど
何かいつも変な空気で
ケンセイ(※11)とあとブルックリンヤス(※12)
やってたEPダブルインパクト(※13)
初めて聞いたUBG(※14)
俺だけが何も知らなかったらしい
ビッグコッタ(※15)一人アトミックボム(※16)
クソ考え抜いた後に動く
CD出すためにソロでK Dub
カッティング(※17)とサインしたアルバム契約

[Hook]

[Verse 3]
『現在時刻(※18)』出して王者復活
アンダーグラウンドなショウ数々
ヒサシ呼んで会社にしたボム(※19)
伝説が始まった渋谷のドン
出した『マジ興味ねぇ(※20)』に『地下から…(※21)
もうオアもやるらしい 今なら(※22)
ストリートクラシック『東京砂漠(※23)
結構売れたぜ 相当な数
そんでその頃はもう『少年A(※24)
童子(※25)のシングルも当然売れ
あと命粗末にすんのがいるので
作った『生きる(※26)』『Save the Children(※27)
2002年 ギドラが揺らした
また空から最終兵器(※28)降らした
メディアおもろいぐらい過剰に反応
まあ、一度ならいいかも 発禁なんの(※29)
騒がした日本のショウビジネス
おかげでインテリも興味示す
ツアーで爆弾落とした列島(※30)
常に合法的に大金ゲット
あと『桜サントラ(※31)』『Change the Game(※32)
恐いもんなしの戦士だぜ
生き残るため今勝負挑む
歴史動かす無敵のアトミックボム

「運命」の注釈

  1. ^ メジャーフォース:1990年前後に日本語ラップを扱ったレコードレーベル。
  2. ^ スチャダラ:スチャダラパーのこと。
  3. ^ ヒデ:Zeebra(ジブラ)のこと。
  4. ^ K.G.:キングギドラのこと。当初は、Saga of K.G.(サガ・オブ・ケージー)と名乗っていた。
  5. ^ オア:DJ Oasis(DJオアシス)のこと。キングギドラのDJ。
  6. ^ イノ:Inovader(イノヴェーダー)のこと。プロデューサー。
  7. ^ P-Vine:1990年代に日本のヒップホップを扱っていたインディ・レーベル。
  8. ^ 空からの力:キングギドラのファースト・アルバム。
  9. ^ ケンボー:DJ Ken-Bo(DJケンボー)のこと。キングギドラのツアーDJを務め、UBG所属のDJとなる。
  10. ^ 影:アルバム「空からの力」に収録されたシングルおよび、それらのリミックスを収録したシングル作品。
  11. ^ ケンセイ:DJ Kensei(DJケンセイ)のこと。Kemuri Production(煙・プロダクション)所属。
  12. ^ ブルックリンヤス:Brooklyn Yas(ブルックリン・ヤス)のこと。UBG所属。
  13. ^ EPダブルインパクト:「Double Impact EP」のこと。UBGのお披露目となる楽曲「Inner City Groove」が収録されたミニアルバム。
  14. ^ UBG:Urbarian Gym(アーバリアン・ジム)のこと。
  15. ^ ビッグコッタ:K Dub Shine(ケーダブ・シャイン)のこと。
  16. ^ アトミックボム:Atmic Bomb Procutions(アトミックボム・プロダクションズ)のこと。
  17. ^ カッティング:Cutting Edge(カッティング・エッジ)のこと。avex(エイベックス)傘下のレーベルで、ECDやBuddha Brand(ブッダ・ブランド)らが所属していた。
  18. ^ 現在時刻:K Dub Shine(ケーダブ・シャイン)のファースト・ソロアルバム。
  19. ^ ボム:Atmic Bomb Procutions(アトミックボム・プロダクションズ)のこと。
  20. ^ マジ興味ねぇ:DJ Oasis(DJオアシス)のシングル作品。K Dub Shine(ケーダブ・シャイン)が客演している。
  21. ^ 地下から…:DJ Oasis(DJオアシス)のシングル作品。Zeebra(ジブラ)が客演している。
  22. ^ 今なら:K Dub Shine(ケーダブ・シャイン)の同名曲にかけていると思われる。
  23. ^ 東京砂漠:DJ Oasis(DJオアシス)のソロアルバム。多くのラッパーが参加している。
  24. ^ 少年A:童子-T(ドージ・ティー)のシングル作品。
  25. ^ 童子:童子-T(ドージ・ティー)のこと。
  26. ^ 生きる:K Dub Shine(ケーダブ・シャイン)のセカンド・アルバム。
  27. ^ Save the Children:K Dub Shine(ケーダブ・シャイン)のミニアルバム。
  28. ^ 最終兵器:キングギドラのセカンド・アルバム。アメリカ同時多発テロを期に、一時的に再結成した。
  29. ^ まあ、一度ならいいかも 発禁なんの:セカンド・アルバム「最終兵器」の先攻シングル「Untouchable」と「FFB」に禁止用語が使用されていたため、店頭のCDが自主回収された。
  30. ^ ツアーで爆弾落とした列島:アトミック・ボム・クルー(ABC)の全国ツアー。
  31. ^ 桜サントラ:窪塚洋介(くぼづかようすけ)主演映画「凶器の桜」のサウンドトラックをK Dub Shine(ケーダブ・シャイン)が監修した。
  32. ^ Change the Game:オムニバス・アルバム「Change the Game」のこと。「幼児・児童虐待防止」をテーマにアトミックボム、UBGらが集結した。

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