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仮説

なぜファミコンの奏でるサウンドはノスタルジックなのか

懐かしきファミコンのカセット
懐かしきファミコンのカセット

ファミコンの低ビットがもたらすグラフィックとサウンドは、ノスタルジーな世界観を映し出す。自分の記憶の中にある懐かしい部分が刺激されて、忘れていた感情のカケラのようなものの一片が、意識に上がってくる。

中田ヤスタカ氏のサウンド(とくにPerfumeの曲)に否応なく反応してしまうのは、ファミコンを経験した世代だからだろう。少年期にファミコンを経ると、脳内に擬似的な神経回路のようなもの(いわゆる「アンカー」)が埋め込まれる。

このアンカーは、数十年経っても消失することなく脳内に潜伏し、トリガーが引かれるのを待っている。そして、中田氏の音楽はトリガーを引く機能をもっていた。トリガーとは引き金(ここでは、「ピコピコした低ビットのサウンド」)のことである。

ファミコン世代に埋め込まれた神経回路(アンカー)は、ピコピコした低ビットのサウンド(トリガー)によって、圧縮ファイルとして封印されていた過去のアーカイブを解錠する。

8ビットが生むノスタルジー

個人的に記憶の深淵の扉を開かれたのは、さかのぼること10年ほど前。2004年ごろに、下北沢の雑貨屋で発見した。迷路のような店内の1コーナーでファミコンのような音楽が鳴っていた。

近づいてみると、YMCK(ワイ・エム・シー・ケー)というアーティストのCDが陳列されていた。ファミコンの音色でボサノヴァのようなメロディーを奏でる独自のサウンドは、いとも簡単に、記憶の深淵の扉を解錠した。

●Magical 8bit Tour / YMCK
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=qtSuMMDAnew[/youtube]

参考作品

ファミリーミュージック ファミリーミュージック
(2004/11/03)
YMCK

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YMCK(ワイ・エム・シー・ケー)のサウンドと出会った翌年の2005年に、Perfume(パフューム)はメジャーデビューした。この時には、この手のジャンルがここまで世界的にブレイクするとは思っていなかったが、個人的な琴線にはビンビン響いていたのは確かだ。

海外アーティストが日本のゲーム音楽とコラボした作品

日本人でなくても、セガ、ニンテンドーくらい知っている。世界中のゲーマーたちの脳にはゲーム音楽という名のアンカーが潜んでいるのだ。

その証拠に、2000年に「Game Over」というコンピレーションがリリースされている。このアルバムには、スーパーマリオの曲に合わせてラップした曲など、ゲーム音楽を用いたヒップホップ音楽が収録されている。(「スーパーマリオの曲でRAPしたヒップホップ作品」参照)

このアルバムには、まだ全国的に有名になる前のEminem(エミネム)も参加している。しかし、ヒップホップ作品としてオススメできるかと言えば、ネタの域を出ないというのが本音だ。目玉曲はあるものの、無名のアーティストや捨て曲が多い印象がある。

しかし、映画「ブレード・ランナー (1982年)」や、「ブラック・レイン (1989年)」のように、外人がもつ日本のイメージを表現した作品としてみれば、楽しめるかもしれない。個人的には、胡散臭くて好きだ。

ヒップホップとファミコンの相性

日本では、スーパー・ファミコン版「ゼルダの伝説 神々のトライフォース」のテレビCMに、スチャダラパーが出演していた。1991年のことである。

●ゼルダの伝説 神々のトライフォース / スチャダラパー
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=aIbuaMgjqQM[/youtube]

そして、2013年。なんと22年ぶりに、このゲームの続編がリリースした。というわけで、今回もスチャダラパーがテレビCM用に楽曲を提供している。トラックは同じものを使用。Bose(ボーズ)の声やフロウも22年前と変わらずだ。

●ゼルダの伝説 神々のトライフォース2 / スチャダラパー
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=PweHhaUC8GY[/youtube]

これを観て驚愕するのは、Bose(ボーズ)の声やフロウが22年前と変わっていないこと(当然アニも)。しかも、CMの映像とリリックがリンクしているのだ(これは映像の編集次第だが)。

そして、求めているものをしっかり納品できるスチャダラパーの安定性に、プロの仕事を見た。

たまにはユートピアを訪れるといい

だれでも一度は多感な時期を過ごす。この時期に浴びてきた情報のシャワーによって、脳内につくられた記憶の世界。それは年齢を重ねていくほどに風化され、汚い部分は忘却の彼方へと消失する。

子供のころ夢中になっていたファミコンは、今でも懐古の念を抱かせる。忘却によって、嫌な記憶を抹消済みの記憶は、自分の頭の中だけに存在を許されているユートピアである。(「ファミコン」の部分は人それぞれ異なる。人によっては、それが「ポケモン」だったり、「仮面ライダー」だったりする)

しかし多くの場合、経済的な理由でユートピアに居続けることができない。だから頭の中にあるユートピアに鍵をかけて、深層に船を渡す。生きるためには、現実社会でハスリングしなければならないのだ。

だから、たまにはユートピアへの鍵を開けてもらおう。作品は無数に存在し、今なお作品は増え続けている。自分にとっての「鍵」となる作品は必ず見つかるだろう。

なにしろ自分の体験や経験が「鍵穴」をつくっているのだ。

おまけ

最後に、誰がつくったのか知らないが、懐かしのファミコンとマイケル・ジャクソンがコラボレーションした動画が面白かったのでシェアしておこう。

●マイケルクエスト
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=NwSj-PlShAo[/youtube]

●Michael Fantasy
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=hM10kmcEG0Y[/youtube]