『FUTURE SHOCK』は、1997年に日本のメジャー・シーンで初めて旗上げしたヒップホップ・レーベル。ここにジブラやソウル・スクリーム、オジロザウルスなどが所属していた。
このレーベルのオーナー、ブルックリン・ヤスによる書籍『スカイ・イズ・ザ・リミット』を読んだ。
本の副題には「ラッパーでもDJでもダンサーでもない僕の生きたヒップホップ」とある。この本はアーティストではなくて、「裏方」の目線で話がつづられているところに価値がある。
たとえるなら、芸能人のマネージャーだったり事務所の社長からの目線でストーリーが語られていくような感じだ。
『FUTURE SHOCK』の作品をリアタイで聴いていた世代からすればレーベルの誕生秘話を知れるだけでも興味深い。また、1作品あたりの予算や売上などについてもかなり具体的に言及していてる。これは貴重な情報だ。
学生時代のストーリー
レーベルのエピソードに終始しているわけでもないのがこの本の特徴。序盤はブルックリン・ヤスが学生時代だったころのストーリーが語られている。
著者のバックグラウンドがわかると、①こういう悩みを乗り越えて、②こんな思考にたどり着き、③目的が定まった、というプロセスが明確になる。因果関係がクリアになるのでわかりやすい。
学生時代のストーリーで個人的に印象に残っているのは、黒人美術教師との会話シーン。世界の歴史について考えたり、異文化を理解していく議論のなかで、多角的なものごとの見方を学んだりするところが純粋に良かった。
ここが、黒人の文化であるヒップホップに日本人の自分が参加する「やましさ」のようなものを払拭できたポイントだったように思う。モヤっとした心の霧が晴れた瞬間というか、読んでいて心地よかった。
ヒップホップ=ライフスタイル
「あの時期に、あの年齢で、あの場所で過ごした」。それだけで心に宿ってしまうほど影響力の強い概念。それがヒップホップだ。
人生のいちばんクリティカルな時期にヒップホップを体験した著者(=ブルックリン・ヤス)はとくにヒップホップ・マインドが色濃く宿っているにちがいない。
それは彼がヒップホップを、“不変の人間力の証明”と表現していることからもうかがえる。
自分だけの「イズム(主義・主張)」をしっかりと持って、これを表現する。個人的にヒップホップとは、自分の「生き方」に関する精神的なよりどころ、すなわち「ライフスタイル」そのものなのだと思う。