ヒップホップの世界にどっぷりと浸かって楽しむ「内側の人」ではなく、外側からヒップホップを見てきた「外側の人」たちによる対談本。
長谷川町蔵(ライター)と、大和田俊之(アメリカ文学者)。自らを文科系と自称する2人がヒップホップについて話し合う。
ヒップホップというコミュニティを外側から傍観したときに見える景色。それはシーンの中心にいても見ることができない。
ここでは、妄信的にヒップホップに傾倒し、ライフスタイルもヒップホップ漬けになっていたB-Boyたちとは違う――アーティストとファンの二者を包括する――視点を得ることができる。
アーティストが提供するコンテンツに対するファンの反応や、アーティストの戦略などを考察し、その背景を紐解く。現実の社会や時代背景を交えてヒップホップを語っているぶん、どっぷりと浸かった「内側の人」よりも、むしろ話がわかりやすい。
また、ヒップホップの歴史を過去から時系列で語られているため、大まかな歴史を把握するのにも役立つ。
目次
第1部 ヒップホップの誕生
1.ブロックパーティー期
2.オールドスクール期
第2部 イーストコースト
1.第2世代の登場
2.サンプリングによるトラック作り
3.ラップは何を言っているのか
4.パブリック・エネミーとネイティヴ・タン
第3部 ウェストコースト
1.ギャングスタ・ラップ登場
2.ギャングスタ・ラップのサウンド
3.西海岸のアンダーグラウンド・シーン
第4部 ヒップホップと女性
第5部 ヒップホップ、南へ
1.ヒップホップ・ソウル
2.ティンバランドのサウンド革命
3.南部の時代
第6部 ヒップホップとロック
第7部 ヒップホップの楽しみ方
ヒップホップを楽しむ
かつて著作権問題が表面化する前は、サンプリングによる楽曲制作が主流であった。いくつもの名盤を、好きな部分で切りとって、フランケンシュタインのように貼り合わせる。まさに、踊れれば何でもあり、という素晴らしい時代であった。
ところが大和田氏は、ヒップホップ作品を敬遠していた時期があったという。そもそも加工しなくてもいい曲(原曲)なのだから、そのまま聴けばいいじゃないか、と。実にごもっともな考えだ。
ヒップホップの楽曲は、いわば二次創作の産物である。すでに完成した料理をいくつか用意し、おいしいところだけをつまんで弁当箱に詰め込むようなところがある。これを音楽と呼んでいいのか怪しいところだが、この横暴を割り切れるかどうかで、ヒップホップを楽しめるかどうかが決まる。
ヒップホップは閉塞的なコミュニティである。だからといって、外部の人間が楽しんではいけないという理由にはならない。ヒップホップでしか通用しない特殊なルールを知ることで、だれでもヒップホップを楽しむことができる。
それをこの対談が証明している。