日本のヒップホップは、アメリカのヒップホップを参考にしながらも、独自の進化を遂げてきた。とくに、J-POPがヒップホップの要素を導入したような作品は、一般的な日本人の耳に合うようにカスタマイズされているため、もはやヒップホップ作品として聴くことはむずかしい。
ある日、急にヒットした「Bomb A Head!」というラップの曲があった。多くの部分にはメロディがついていて、サビは完全に歌だった。そして奇妙なことに、この曲を歌うアーティストは、日本のヒップホップを代表するアーティストの誰でもなかったのである。
●Bomb A Head! / m.c.A・T
1993年にリリースされたこの曲は、m.c.A・T(エム・シー・エー・ティー)というアーティストだった。
日本のヒップホップがまだアンダーグラウンドでくすぶっていた時期に、彼は「Bomb A Head!」を引っさげて、しれっとミュージックステーションに出演していた。
●Bomb A Head! (LIVE at Music Station) / m.c.A・T
[youtube]https://www.youtube.com/watch?v=MLgUy0N56Bg[/youtube]
高音の声を活かした歌唱と、適宜使用されるラップ。そのバランスは絶妙である。ただし日本のヒップホップの文脈からは外れていると言わざるを得ない。
なんというか、「ラップを取り入れたJ-POP作品」と言った方がしっくりくるのだ。
その後リリースしたシングルも、やはり歌とラップのハイブリッド作品に仕上がっている。そのなかには、Da Pump(ダ・パンプ)がカバーしたものもいくつかある。
●ごきげんだぜっ! / m.c.A・T
[youtube]https://www.youtube.com/watch?v=meGikK-QoaA[/youtube]
●Feelin Good ~恋はパラダイス / m.c.A・T
[youtube]https://www.youtube.com/watch?v=cw6Klholv2E[/youtube]
少なくとも彼には、ダンス、歌、ラップの3つを融合させて、J-POPにまで昇華させる能力がある。彼の登場以降、この手法がメジャーアーティストの間でもよく用いられるようになった。
Da Pump(ダ・パンプ)や安室奈美恵、SPEED(スピード)に代表される、沖縄アクターズスクール出身のアーティストや、ジャニーズ事務所のアーティストの一部は、この手法によるヒット作をもっている。
ただし彼らはヒップホップ・アーティストではない。歌とラップとダンスを器用に融合した、洗練されたエンターテイナーなのだ。
参考作品
m.c.A・T Best Singles+(DVD付) (2007/02/21) m.c.A・T |