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メイクマネー

CDSを使ったゴールドマン・サックスのメイク・マネー

チャールズ・ファーガソンの「強欲の帝国」という本を読んで知ったのは、「彼ら」は呆れるほど膨大なマネーを荒稼ぎしていたという事実だ。ヒップホップでいう「メイク・マネー」なんか比較にならない。

ラップでカネを稼ぐのがラッパーなら、「彼ら」は実体のないマネーでカネを稼ぐ。そう「彼ら」とは、カネを扱うプロ、金融業界のトップ連中である。

映画「インサイド・ジョブ」予告編

2010年に公開された社会派ドキュメンタリー「Inside Job(インサイド・ジョブ)」は、長編ドキュメンタリー映画部門でアカデミー賞を受賞した。2008年からの世界金融危機は人災であると言い、関与したと思われる人間へのインタビューを敢行した。

取材を拒否した人間も多かったようだが、インタビュー中にチクリとする質問をすると、言葉を濁したり、逆ギレしたりするところがリアルだ。

この映画の監督がチャールズ・ファーガソンで、インタビューもすべて彼によるものだ。そしてこの映画に肉付けして出版されたのが2014年に出版された『強欲の帝国』である。インタビューの一部もこの本で読むことができる。

マネーゲームの成れの果て

書籍『強欲の帝国』には、アメリカの汚職や回転ドア人事、教育問題など、幅広く言及しているが、今回は2008年の金融危機に関係のある、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)という金融商品について備忘録的に記しておく。

担保がないのにカネを貸す金融業者

カネを貸した人とカネを借りた人の契約は、決められた期日までに借りたカネを返せば終了となる。もし期日までにカネを返せなかったとしても、もってる資産(担保)をカネに換えて支払えばいい。資産を現金化しても足りない人間には、はじめからカネを貸さなければいいだけのことだ。

貸すかどうかを決めるには、まず返済能力を審査する必要がある。カネを貸す側がカネを借りる側の担保(年収や貯金および保有金融資産など)を把握しておく。デフォルト(債務不履行)が起きたときに損するのは貸す側だ。この審査はしっかりと精査するべきである。

ところが何を血迷ったのか、返済能力がなさそうな人間にカネを貸すようになった。サブプライム(審査に通らないような信用度の低い人)にローンを組んだのである。しかも積極的に。

最初はしっかりとローンを支払うが、だんだん返済がキツくなって返済できなくなる(焦げ付く)。しかもサブプライムはローン総額以上の資産を持っていないことが多いため、資産をすべて現金化しても回収しきれない。回収しきれないということは、損をしてしまうということだ。

では、なぜ損をしやすいサブプライムローンを組んでしまったのか。そのワケは「証券化」というトリックで説明できる。

債権を証券化する

カネを貸す側は、毎月ローンを受け取ったり、自分の不動産の住人から家賃をもらったりして、毎月収入がある。このカネをもらう権利を「債権」という。この「債権」を「証券」に変えることによって市場で売買できるようになる。

証券会社は、複数の債権を束ねて「証券」という商品をつくる。そしてこれらを一般の投資家などに売る。債権とはいっても、サブプライムローンなど返済が怪しい債権もたくさん紛れ込んでいる。こんなものをいったい誰が買うのだろうか。やはりここにも魔法がある。

信頼度の高い格付け機関が証券を格付けするのだ。最高ランクの「AAA」が付けば顧客から信用を勝ち取ることができる。つまり格付け会社の「意見」ひとつで証券が売れるのである。証券会社は格付け会社にこっそりカネを支払ってクソ証券に「良い意見(=AAA)」をつけてもらう可能性もゼロではないだろう。

だが何も知らない投資家たちは、格付けを信頼して証券を購入してしまうのだ。

どんなデフォルト(債務不履行)にも賭けられる保険

証券がデフォルトしたときに、回収しきれなかった債権を保証してくれる保険がある。CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)だ。この保険のすごいところは、証券を持っていなくてもCDSを買えるところにある。

たとえば、10,000円を貸して12,000円返してもらうはずが、7,000円しか返してもらえなかったときに、手数料を支払っていれば5,000円が戻ってくる(現金決済)。しかもこの商品は誰でも買えるので、5,000円はCDSを買った全員に支払われる。

デフォルトしなければ毎月手数料を支払うことになる。この保険料で莫大な利益を上げていたのがAIGである。しかしデフォルトすれば損害は大きい。

ゴールドマン・サックスとAIG

証券会社のゴールドマン・サックスは、大量のクズ証券をアホな投資家などに売り払い、同時にAIGからこれらのCDSを購入した。これらクズ証券がデフォルトしてCDSによる多額の支払いが発生すると、AIGも崩壊するだろう。

そう考えたゴールドマン・サックスは、AIGの株を空売りし、さらにAIGのCDSプロテクションもこっそりと購入していた。そして予想通りAIGは破綻。しかも破綻する前にはクズ証券のCDSの支払をAIGから76億ドル以上を受け取っていたという。

普通に考えて、すべての絵(シナリオ)が見えていなければ、こんなに見事な立ち回りはできないだろう。明らかに出来レースのように見える。しかしゴールドマン・サックスの人間はシラを切り通し、誰一人として訴追されることはなかった。

まとめ

何が「良いこと」で、何が「悪いこと」なのか。それは誰にも分からないし自分で決めればいいと思う。大きな流れは矮小な個人にはどうすることもできない。できることは、ただ自分の「正義」に従って行動していくことぐらいだ。

頭のいい人が頭の悪い人から富をだまし取る。それが世の常なら知識をつけて自分の身を守ることはとても重要だ。せっかく学ぶ機会が用意されているのなら、知識をつけることにエネルギー使いたい。「強欲の帝国」は、そう思わせてくれる本だった。

強欲の帝国 ーーウォール街に乗っ取られたアメリカ <目次>

  1. アメリカの現状
  2. パンドラの箱を開ける ーー金融緩和の時代(1980年〜2000年)
  3. バブル パート1 ーー2000年代の借り入れと貸し付け
  4. バブルを生み出し、世界に広げたウォール街
  5. すべてが崩れ落ちる ーー警鐘、略奪者、危機、対応
  6. 罪と罰 ーー犯罪事業としての銀行業とバブル
  7. 痛みをもたらす負の産業 ーー野放しの金融部門
  8. 象牙の塔
  9. 出来レースの国、アメリカ
  10. 何をするべきか