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親がラップで子どもにメッセージを送った曲

ある日、「もしも息子が出来たなら・・・」という曲を聴いたとき、耳が釘付けになった。

この曲は、DJ Mitsu The Beats(DJミツ・ザ・ビーツ)のメロウなトラック上で、いつか生まれるであろう息子に対してKohei Japan(コーヘイ・ジャパン)がラップでメッセージを送った作品だ。

2002年に発売された「Change The Game」というコンピレーション・アルバムに収録されているのだが、とにかくこの曲だけがアルバムに場違いなほど(良い意味で)浮いていたのを覚えている。

アルバムは、「幼児・児童虐待防止」というコンセプトのもと、K-Dub Shine(ケーダブ・シャイン)や童子-T(ドージ・ティー)などAtomic Bomb(アトミック・ボム)周辺アーティストなどがシリアスにラップしている。彼らなりの「社会問題をあつかっている感」がひしひしと伝わってくる内容に仕上がっている。

しかし、Kohei Japan(コーヘイ・ジャパン)のラップにはシリアスさは微塵も感じられない。むしろ愛に満ちあふれていた。まだ見ぬ息子をさとす「良きパパ」がそこにいたのだ。

こんな親父に育てられたら子どもは健やかに育つに違いない。そう思った。

もしも息子が出来たなら・・・ [Feat. Kohei Japan] / DJ Mitsu The Beats

当たり前だが、ジャパニーズ・ヒップホップは日本語でラップしている。だから日本人にも歌詞の内容が理解できる。

クラブ・ミュージックという性質もある以上、「ノリ重視」の楽曲はたくさんある。しかし、個人で好きな音楽を楽しむ場合、メッセージをヘッドフォンで受け取ることのほうが多い。

十分に英語を理解できないままUSヒップホップを聴いてきた経緯から、ラップを楽器として聴くことが多かった筆者にとって、正直なところリリックの内容は「二の次」だった。

ラップに関して言えば、いかに上手くライミング(押韻)するか、いかに個性的にリズムに乗るかという、テクニカルな部分で楽曲の善し悪しを判断していたところがある。

とくに、2000年代前後に活躍したハードコア・ヒップホップ集団、Nitro Microphone Underground(ニトロ・マイクロフォン・アンダーグラウンド)を好んで聴いていたのは、リリックの内容ではなく、彼らの自信満々なスタイルと勢いだった。

しかし、「もしも息子が出来たなら・・・」を聴いて、リリックの内容もちゃんとフォローしていこうと思った。このことがきっかけで、J-POPの歌詞にも興味を抱けるようになった。

ただ、Nitro Microphone Underground(ニトロ・マイクロフォン・アンダーグラウンド)にも、「もしも息子が出来たなら・・・」のように、息子に向けてラップしている曲がある。

ニトロのメンバーであるDeli(デリ)が、S-Word(スウォード)とともに、息子の声をサンプリングして作ったという「4 Minutes Of Yell」という楽曲である。

4 Minutes Of Yell [Feat. S-Word] / Deli (2001年)

この曲は、Deli(デリ)の「Akalien」という3曲入りEP収録の曲で、自分たちの子どもに対して「4分間のエール」を送っている。「もしも息子が出来たなら・・・」ではなく、「すでに存在する息子」に対して、である。

多少アレンジされているが、S-Word(スウォード)のファースト・アルバム「One Piece」にも「For Minutes [Feat. Deli]」が収録されているので、両方のバージョンを聴いてみるといい。個人的にはDeli(デリ)バージョンのほうが好みだ。

「親の心子知らず」

今はまだ親の真意が伝わらなくても、音楽に思いが残っていれば、子どもが成長したときにメッセージの意味を理解できる日が来るだろう。メッセージをラップで伝えるというのは素晴らしいやり方だと思う。

おまけ

ちなみに、「4 Minutes Of Yell」には同ネタの曲が存在する。Aesop Rock(エイソップ・ロック)の「Daylight」という曲だ。ちょうどいい機会なので、ここで紹介しておく。

Daylight / Aesop Rock (2001年)