ヒップホップは、1970年ごろにはじまり、はじめて世の中に浸透したヒップホップ・レコードは、Sugarhill Gang(シュガーヒル・ギャング)の「Rapper’s Delight (1979年)」だと言われている。それからというもの、数多くのレコードが生まれては、リスナーの耳を通りぬけてきた。
そしてヒップホップ音楽が成熟期に入っていた1988年、ヒップホップ専門雑誌「The Source」が創刊された。この雑誌「The Source」には、アルバム紹介のコーナーがある。マイクの数(1~5本)で作品を評価するのだが、かなり採点がきびしい。満点(5本マイク)の評価はまず出なかった。(後に一部の評価が訂正され、20枚近くのアルバムが「5本マイク」へと昇格した)
だからこそ、「5本マイク」を獲得した作品は無条件で「名盤」だと認められるのである。同時にアーティストのステータスにもなる。
10年間でたったの9作品
これまでに「5本マイク」を獲得した作品は45枚(2012年現在)。豊作と言われた1990年代の10年間でもわずか24枚と、年に2、3枚しか認定されていない。しかも、そのうちの18枚はもともと「4本」や「4.5本」だった作品を、あとから5本に訂正したものである。
26年間(1984年~2010年)もの期間でたった45枚。1年に1、2枚ほどしか出ない計算だ。満点をとるのがいかに難しいかがわかる。
今回は「The Source」で満点を獲得した作品をまとめてみた。ヒップホップ音楽の入門作品として最適な、業界が認める名盤をぜひチェックしてほしい。
作品リスト
- Run DMC (1984) / Run-D.M.C.(ランDMC)
- Radio (1985) / LL Cool J(LLクールJ)
- Licensed To Ill (1986) / Beastie Boys(ビースティー・ボーイズ)
- Raising Hell (1986) / Run-D.M.C.(ランDMC)
- Criminal Minded (1987) / Boogie Down Productions(ブギー・ダウン・プロダクションズ)
- Paid In Full (1987) / Eric B. & Rakim(エリックB・アンド・ラキム)
- Long Live The Kane (1988) / Big Daddy Kane(ビッグ・ダディ・ケイン)
- By All Means Necessary (1988) / Boogie Down Productions(ブギー・ダウン・プロダクションズ)
- Strictly Business (1988) / EPMD(イー・ピー・エム・ディー)
- Straight Out The Jungle (1988) / Jungle Brothers(ジャングル・ブラザーズ)
- Straight Outta Compton (1988) / N.W.A(エヌ・ダブリュー・エー)
- It Takes A Nation Of Millions To Hold Us Back (1988) / Public Enemy(パブリック・エネミー)
- The Great Adventures Of Slick Rick (1988) / Slick Rick(スリック・リック)
- Critical Beatdown (1988) / Ultramagnetic MC’s(ウルトラマグネティック・エムシーズ)
- No One Can Do It Better (1989) / The D.O.C.(ザ・ディー・オー・シー)
- People’s Instinctive Travels And Paths Of Rhythm (1990) / A Tribe Called Quest(ア・トライブ・コールド・クエスト)
- One For All (1990) / Brand Nubian(ブランド・ヌビアン)
- Let The Rhythm Hit ‘Em (1990) / Eric B & Rakim(エリック・ビー・アンド・ラキム)
- Grip It! On That Other Level (1989) / Geto Boys(ゲトー・ボーイズ)
- Amerikkka’s Most Wanted (1990) / Ice Cube(アイス・キューブ)
- Breaking Atoms (1990) / Main Source(メイン・ソース)
- The Low End Theory (1991) / A Tribe Called Quest(ア・トライブ・コールド・クエスト)
- De La Soul Is Dead (1991) / De La Soul(デ・ラ・ソウル)
- Death Certificate (1991) / Ice Cube(アイス・キューブ)
- The Chronic (1992) / Dr. Dre(ドクター・ドレ)
- Doggystyle (1993) / Snoop Doggy Dogg(スヌープ・ドギー・ドッグ)
- Enter The Wu-Tang (36 Chambers) (1993) / Wu-Tang Clan(ウータン・クラン)
- Illmatic (1994) / Nas(ナズ)
- Ready To Die (1994) / The Notorious B.I.G.(ザ・ノトーリアス・ビー・アイ・ジー)
- The Diary (1994) / Scarface(スカーフェイス)
- The Infamous… (1995) / Mobb Deep(モブ・ディープ)
- Only Built 4 Cuban Linx… (1995) / Raekwon(レイクォン)
- Me Against The World (1995) / 2Pac(トゥ・パック)
- The Score (1996) / Fugees(フュージーズ)
- Reasonable Doubt (1996) / Jay-Z(ジェイ・ジー)
- All Eyez On Me (1996) / 2Pac(トゥパック)
- Life After Death (1997) / The Notorious B.I.G.(ノトーリアスBIG)
- Aquemini (1998) / Outkast(アウトキャスト)
- 2001 (1999) / Dr. Dre(ドクター・ドレ)
- Stillmatic (2001) / Nas(ナズ)
- The Blueprint (2001) / Jay-Z(ジェイ・ジー)
- The Fix (2002) / Scarface(スカーフェイス)
- The Naked Truth (2005) / Lil’ Kim(リル・キム)
- Trill O.G. (2010) / Bun B(バンB)
- My Beautiful Dark Twisted Fantasy (2010) / Kanye West(カニエ・ウェスト)
5本マイク名盤リスト
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Run DMC (1984)
Run-D.M.C.(ランDMC)「5本マイク作品」はこのアルバムからはじまった。強烈なドラムの打ち込みが、シンプルにビートを刻む。当時としては異例のゴールド・ディスクを獲得した作品。絶大な人気をものがたる。おそらく、ライムスターのルーツはこのアーティストでしょう。
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Radio (1985)
LL Cool J(LLクールJ)カンゴール・ハットにエア・ジョーダンというファッション。でかいラジカセをストリートで持ち歩くスタイル。これらのブームとなった原因がこの作品。シンプルすぎるビートに、淡々と吐き捨てられるラップが大ヒット。プラチナム・レコードを獲得。「18歳の天才ラッパー」というのがこの作品のキャッチフレーズ。
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Licensed To Ill (1986)
Beastie Boys(ビースティー・ボーイズ)白人ラップのパイオニア。ハードコア・パンクとヒップホップが融合した斬新な作品。ヒップホップとハードロックの両方から支持を得ることで、多くのファンを獲得した。とにかく、ギターを使用した楽曲が多い。ミクスチャーの先駆けともいえる。
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Raising Hell (1986)
Run-D.M.C.(ランDMC)Aerosmith(エアロスミス)との「Walk This Way」が、全米チャート4位の大ヒット。ひも無しでアディダス「スーパースター」を履くのがカッコよかった時代。そのきっかけとなる「My Adidas」を収録。ランとDMCの掛け合いもコンビネーション抜群の1枚。
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Criminal Minded (1987)
Boogie Down Productions(ブギー・ダウン・プロダクションズ)「ヒップホップとは何ぞや?」という問いの答えが、コレ1枚でわかる。ほぼキックとスネアのみのシンプルなサウンドは、かなりスカスカ。そこにKRSワンのラップが乗ると、マジックが生まれる。重要な曲がいくつも入った名盤であることは間違いない。
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Paid In Full (1987)
Eric B. & Rakim(エリックB・アンド・ラキム)ラキムの緻密なライム(押韻)を味わえる。有名すぎる作品。「Paid In Full」や「Ain’t No Joke」、キングギドラの作品でも言っていた「I Know You Got Soul」など、とにかく名曲がズラリと並ぶ。ラップの教科書的な作品。エリックBのスクラッチは愛嬌。
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Long Live The Kane (1988)
Big Daddy Kane(ビッグ・ダディ・ケイン)歴史をさかのぼれば、どうしてもこの男にたどり着くはずだ。MCとしての資質をすべて兼ね備えている。ここまで完璧なリリシストというのはほかに存在しないだろう。ジュース・クルーの花形が、セールス重視のスタイルへと走る以前にリリースされた唯一の作品。
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By All Means Necessary (1988)
Boogie Down Productions(ブギー・ダウン・プロダクションズ)相棒のスコット・ラ・ロックが射殺により他界。そしてKRSワンが立ち上がった。暴力反対からエイズ問題まで、社会問題をテーマにした楽曲が並ぶ。ヒップホップ・コミュニティの向上を目指す姿勢がうかがえる作品。ポジティブなメッセージが印象的なBDPの2作目。
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Strictly Business (1988)
EPMD(イー・ピー・エム・ディー)ドス黒ファンク・サウンドの始祖。エリック・サーモンとパリッシュ・スミスによる、力みすぎないラップの掛け合いが特徴。ファンクのエッセンスのみを抽出した黒いサウンドは、まるでエスプレッソのように濃い。
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Straight Out The Jungle (1988)
Jungle Brothers(ジャングル・ブラザーズ)ネイティブ・タン一派のルーツとなる作品。これまではジャージにゴールド・チェーンがBボーイの象徴だった。そんな中、首からビーズを下げ、民族的なファッションで登場したのが彼らである。アフリカ回帰思考を連想させ、大ネタを使用した曲が多い。
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Straight Outta Compton (1988)
N.W.A(エヌ・ダブリュー・エー)邦題「コンプトンの無法者たち」。西海岸のヒップホップ作品としては異例のセールスを記録。6人のワルがつくり出すサウンドは高圧的で、犯罪のにおいがプンプンする。メンバーにアイス・キューブとドクター・ドレがいるグループなんて、今考えるとすごい。
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It Takes A Nation Of Millions To Hold Us Back (1988)
Public Enemy(パブリック・エネミー)史上最高傑作との呼び声も高い、PEのセカンド。ブラック・ムスリム思想が色濃く反映したラップは過激そのもの。ネタを幾層にもコラージュしたようなサウンドが拍車をかける。チャックDの重厚なラップは、まさにカリスマ。
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The Great Adventures Of Slick Rick (1988)
Slick Rick(スリック・リック)スリック・リックは、ストーリー・テラー(物語の語り手)の始祖として名高い。この作品では、独特の鼻にかかった声で、多くの物語を聴かせてくれる。「La-Di-Da-Di」や「Children’s Story」などが有名。アーティストとしての資質は抜群だが、殺人罪で逮捕されてしまった残念なMC。
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Critical Beatdown (1988)
Ultramagnetic MC’s(ウルトラマグネティック・エムシーズ)NYアンダーグラウンドの雄。そのデビュー・アルバム。シングル作品に定評がある彼ら。ほとんどがアルバム未収録なのは残念であるが、玄人好みのグループなのは間違いない。メジャーでは、このノリは出せないだろう。デブ・ラージも、少なからず影響を受けていると思われる。
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No One Can Do It Better (1989)
The D.O.C.(ザ・ディー・オー・シー)NWAのメンバーと親交が深く、ドクター・ドレが全面的にプロデュース。「The Chronic」でGファンク旋風を巻き起こす以前のプロトタイプ的作品。Pファンク使いが大半を占め、名曲が並ぶ。とくに「It’s Funky Enough」は有名すぎる1曲。「One, and here comes the two to the three」というラインはドラゴン・アッシュのkjも引用していた。この作品をリリース直後、彼は飲酒運転でガラス片がのどに刺さり声を失う。
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People’s Instinctive Travels And Paths Of Rhythm (1990)
A Tribe Called Quest(ア・トライブ・コールド・クエスト)ネイティブ・タン一派の主要グループ、トライブ・コールド・クエストのデビュー・アルバム。1980年代のサウンド(オールド・スクール)からの脱皮。新たに1990年代のはじまりを象徴する。ニュー・スクールの幕開けである。1980年代のヘビー・リスナーにとっては、さぞかし衝撃的な作品だったのであろう。
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One For All (1990)
Brand Nubian(ブランド・ヌビアン)ニュー・スクール世代を代表する名盤のひとつ。ブランド・ヌビアンのデビュー・アルバム。ネタをふんだんに使用したカラフルなサウンドが特徴。個性的な3MCによる掛け合いは秀逸。ブラック・ムスリム思想を連想させるリリック(歌詞)が印象的。この作品以降、グランド・プーバらが脱退。メンバー4人では最初で最後の作品。
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Let The Rhythm Hit ‘Em (1990)
Eric B & Rakim(エリック・ビー・アンド・ラキム)エリックB&ラキムの3作目。低音でドスの効いたラキムのラップには貫禄がある。ホーンを使用した渋めのトラックも玄人好みである。遅めのBPMは、ラキムのラップをじっくり聴かせる手なのであろうか。決して一見さんには薦めないが、味のある作品。
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Grip It! On That Other Level (1989)*
Geto Boys(ゲトー・ボーイズ)スカーフェイス、ウィリーD、ブッシュウィック・ビルの3人組だったときの作品。南部のグループが5本マイクを獲得するのは珍しいが、これは稀代のリリシストである、スカーフェイスの存在が大きい。たびたびメンバーが入れ替わっているが、このときのメンバーがベストだろう。
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Amerikkka’s Most Wanted (1990)
Ice Cube(アイス・キューブ)西海岸を象徴するグループNWAから早々と脱退後発表したソロ・デビュー作品。NYの人間と手を組んでつくったため、サウンド面で西海岸を感じるのはむずかしいが、社会問題を扱った怒り心頭のラップはアイス・キューブらしい。避けては通れない1枚だろう。
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Breaking Atoms (1990)*
Main Source(メイン・ソース)ラージ・プロフェッサーほか、2DJで構成されたグループ。宝石のようにカラフルなネタ使いを聴けば、ラージ・プロフェッサーの偉大さがわかるだろう。ここまでネタをふんだんに使用し、丁寧にサンプリングした作品はほかに見当たらない。「Live At The Barbeque」には、初音源化となるNasのラップを聴くことができる。
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The Low End Theory (1991)
A Tribe Called Quest(ア・トライブ・コールド・クエスト)ベスト・ワークの呼び声も高い、ATCQの2作目。ジャジーなサウンドと、Qティップの声が相性抜群。聴いていて気持ちいい作品とはこのことだ。手に入れれば、長い付き合いになるだろう。ただし、激しい曲を求めているのであれば、オススメしない。
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De La Soul Is Dead (1991)
De La Soul(デ・ラ・ソウル)ネイティブタン一派のグループ、デ・ラ・ソウルの2作目。力を誇示するようなスタンスではなく、日常の一幕をラップに乗せている。そのため威圧感はまったく感じられない。ライト・リスナーにもスーっと入ってくる作品。スチャダラパーが影響を受け、活動を開始したのは有名な話。
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Death Certificate (1991)*
Ice Cube(アイス・キューブ)過激なリリック(歌詞)が災いし、不買運動が行われたほどの問題作。アイス・キューブの2作目。1991年の「ロドニー・キング事件」の影響からか、白人汚職警官について言及しているほか、朝鮮人に対する差別的な発言も確認できる。その翌年、「LA暴動」が起こる。古巣NWAのメンバーへのアンサー・ソング「No Vaseline」も過激。
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The Chronic (1992)*
Dr. Dre(ドクター・ドレ)当時、ネイティブ・タン一派が、東海岸(イースト・コースト)を席巻していた。しかし、この作品が西海岸(ウェッサイ)でリリースされ、事態は一変する。Gファンクと呼ばれる、ドクター・ドレのサウンドが大流行。しばらくGファンク・ブームは続く。この1枚が、Gファンク作品の基本であり、原点である。
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Doggystyle (1993)*
Snoop Doggy Dogg(スヌープ・ドギー・ドッグ)スヌープ・ドギー・ドッグのデビュー・アルバムにして、Gファンク作品の最高傑作。Gファンク・サウンドとスヌープの声がぴったりとハマる。以後、何枚もアルバムが発表されるたび、このデビュー作の偉大さを知ることになる。Early 90’sにおける、ひとつの金字塔と言えるだろう。
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Enter The Wu-Tang (36 Chambers) (1993)*
Wu-Tang Clan(ウータン・クラン)MC集団、ウータン・クランのデビューアルバム。総帥RZAによるB級ホラー・サウンドに乗って、個性豊かなMCたちが入り乱れるという斬新な1枚。メンバーたちは次々とソロ作品を大ヒットさせ、「ウータン旋風」を巻き起こした。ニトロ・マイクロフォン・アンダーグラウンドは、日本版ウータンといえるだろう。
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Illmatic (1994)
Nas(ナズ)西のGファンクが隆盛をきわめていたころ、1人の天才リリシストがデビュー。新人アーティストとしては異例の豪華プロデューサー。ラージ・プロフェッサー、DJプレミア、ピート・ロックなどなど。全10曲。そのすべてが名曲という奇跡のアルバム。この作品が神格化されてしまっため、今後の作品がすべて比較対象となってしまい苦労していたようだ。
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Ready To Die (1994)*
The Notorious B.I.G.(ザ・ノトーリアス・ビー・アイ・ジー)最高峰のスキル(技術)をもった、巨漢MC。ビギー・スモールの1枚目。本人が生まれてから死ぬまでを、1枚のアルバムで表現。トータル・コンセプトに基づいた作品。ハードコアな曲、メロウな曲、クラブ映えする曲など、バラエティに富んでいる。ビギーのラップを聴けば、これが芸術作品だと認めざるを得ないだろう。
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The Diary (1994)*
Scarface(スカーフェイス)元ゲトー・ボーイズのMC、スカーフェイスの3作目。地道なソロ活動が実を結び、3作目で5本マイクを獲得。アル・パチーノ主演の映画「スカーフェイス」をネタにした作品も収録。また、この映画が名前の由来にもなっている。
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The Infamous… (1995)*
Mobb Deep(モブ・ディープ)NYクイーンズ地区の2MCユニットの2作目。悲壮感さえ漂わせるダークなサウンド。そのビート上で、淡々とライムが吐き出されるドープな作品。1人の世界に入りたいときに「Survival Of The Fittest」なんかを聴くといい。誰もが認める名曲「Shook Ones Pt.2」も収録されている。
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Only Built 4 Cuban Linx… (1995)*
Raekwon(レイクォン)ウータンのMC、レイクォンのソロ・デビュー作品。ウータン作品が、映画「燃えよドラゴン」なら、この作品は、映画「スカーフェイス」である。RZAのサウンドがいちばんドープだったころの名盤。このテイストは二度と出ないだろう。ジャケットにはゴーストフェイス・キラーが共同作品と言わんばかりに映っている。
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Me Against The World (1995)*
2Pac(トゥ・パック)性的虐待容疑の実刑判決により獄中でのリリースとなった3作目。ヒップホップ史上最もカリスマ性をもったMCは、この作品以降、過激なキャラクターへと変貌を遂げる。「世界を敵に回す俺」といったニュアンスのタイトルとは裏腹に、メロウな曲がバランスよく収録された名盤である。「Dear Mama」を聴けばわかるだろう。
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The Score (1996)*
Fugees(フュージーズ)男2女1の3人組ユニットの2作目。3MCだが、ワイクリフとローリンは歌もできる。大ネタも使用している曲も多く、ポップな印象を受ける。こう言ってはなんだが、こんなの売れるに決まっている。ローリン・ヒルに注目。歌は激ウマで声も最高。ラップもできるスーパー・ウーマン。
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Reasonable Doubt (1996)*
Jay-Z(ジェイ・ジー)お金の稼ぎ方を肌で理解しているビジネスマン、ジェイZのデビュー・アルバム。麻薬の売人など、ストリートの稼業でのし上がった自身の経験をラップしている。ハードな曲から、メロウな曲までなんでもやる。サウンドもクオリティが高く、貫禄たっぷりの作品。
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All Eyez On Me (1996)*
2Pac(トゥパック)シュグ・ナイトが保釈金を払い、獄中から2パックがカムバック。まもなく放たれた2枚組みの4作目。東海岸(おもにバッドボーイの面々)を徹底的に敵視。サウンドだけでみれば、しっとりした曲も多く存在するが、基本的にはイケイケなキャラ全開。不適な笑みがこぼれるときもある。当時の西海岸(ウェッサイ)サウンドを象徴している。
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Life After Death (1997)
The Notorious B.I.G.(ノトーリアスBIG)天性のセンスをもったMC、ノトーリアスBIGの遺作となる2作目。前作が名盤だったにもかかわらず、それに負けない作品に仕上がっている。ハードコアな楽曲はあまり収録されていない。これが「大人の余裕」というものだろう。リリース直前、凶弾にたおれた彼。もっと多くの作品を残してほしかった。
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Aquemini (1998)
Outkast(アウトキャスト)サウス産のヒップホップを世に広めた、アウトキャストの3作目。一般的なヒップホップ作品とは一線を画す。なんとも言えない乾いたビートにまったりとラップが乗った、独特のサウンドである。田舎モノだとあなどれない作品。
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2001 (1999)*
Dr. Dre(ドクター・ドレ)かつて、Gファンクを世に広めたドクター・ドレの2作目。あきらかにGファンクとはちがう、オリジナルなサウンドを引っさげて再び登場。「The Next Episode」と「Still D.R.E.」があまりにも有名。聴けばすぐに名曲だとわかる。ちなみに「Forgot About Dre」にはエミネムが参加している。
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Stillmatic (2001)*
Nas(ナズ)つねにファースト「Illmatic」と比較され続けてきたNas。「顔ジャケ」から卒業して新たなスタートを切った5作目。「Illmatic」と比べて洗練度の高いサウンドが賛否を分けるが、名盤としてそん色ないクオリティだ。ジェイZとのラップ・バトル真っ只中にリリースされた。ジェイZ批判の「Ether」も収録。
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The Blueprint (2001)*
Jay-Z(ジェイ・ジー)年に1枚は作品をリリースしてきたジェイZの6作目。ジャクソン5ネタの「Izzo (H.O.V.A.)」をはじめ、大ネタを使用した曲が多い。スローテンポのまったりとした曲が多い一方で、Nasへのディス曲「Takeover」も収録されている。また、「Renagade」にはエミネムが参加している。
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The Fix (2002)*
Scarface(スカーフェイス)自身が社長を勤めるデフ・ジャム・サウスからリリースした7作目。バトルの真っ最中であったNasとジェイZがそれぞれの曲で客演参加。なんと1枚のアルバムに2人が納まっているから驚きだ。これが「フィックス」ということか。「On My Block」が個人的にベスト・トラック。
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The Naked Truth (2005)
Lil’ Kim(リル・キム)ジュニア・マフィアの紅一点。リル・キムの4作目。女性MC単品としては初の5本マイク作品。サウンド面はバラエティに富んでいるし、彼女らしいラップも乗っている。しかし5本マイクを獲得するほどのポテンシャルを秘めているかと言われると、いささか複雑だ。完成度の高い作品ではあるが、個人的には、もうすこしパンチのある曲が欲しかった。
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Trill O.G. (2010)
Bun B(バンB)テキサスのヒップホップ・デュオ、UGK (Underground Kingz)のメンバー、バンBの3作目です。ベテランMCとはいえ、まさかの5本マイク獲得。2007年に33歳の若さでこの世を去ったUGKの相棒Pimp C(ピンプC)も喜んでいるのではないでしょうか。シングル「Trillionaire」を収録。また、「Let ‘Em Know」はDJ Premier(DJプレミア)がプロデュース。ちゃっかりしてますね。
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My Beautiful Dark Twisted Fantasy (2010)
Kanye West(カニエ・ウェスト)カニエ・ウェストの6作目。5本マイクを獲得できるのは、ヒップホップ・アーティストにとって最高の勲章だろうが、彼ほどの洗練されたサウンドをつくれるアーティストなら、5本マイクを獲得してしかるべきだろう。アルバム枚数を重ねるごとに、進化を続けるカニエ・ウェスト。現在のヒップホップ・サウンドのど真ん中にいると考えていいだろう。今後も更なる成長を願う。
「*」 について:最初は5本ではなかったが、後に訂正されて5本マイクになった作品