2Pac(トゥパック)は、西海岸のラッパーで、1990年代ヒップホップの歴史上で避けて通ることのできない人物である。
そんなわけで、彼が歩んできたバイオグラフィを時系列でまとめてみた。
年代別リンク
1970年 | 1988年 | 1993年 | 1998年 | 2003年 |
1971年 | 1989年 | 1994年 | 1999年 | 2004年 |
1973年 | 1990年 | 1995年 | 2000年 | 2006年 |
1983年 | 1991年 | 1996年 | 2001年 | 2007年 |
1986年 | 1992年 | 1997年 | 2002年 |
1970年
- NYブラック・パンサー党員のアフェニ・シャクールが、2パックを妊娠中にNYの公共施設への爆弾テロ謀議の容疑を含む156件の罪状で投獄される。
1971年
- 7月16日、アフェニが釈放された約1ヵ月後、ブロンクスにてトゥパック・アマル・シャクール(Tupac Amaru Shakur)=2パック誕生。「Tupac Amaru」はインカ語で「輝ける蛇」、「Shakur」はアラビア語で「神への感謝」を意味する。
1973年頃
- アフェニと恋人ムトゥールの間に妹セキーワ(Sekiywa)誕生。その直前、ムトゥールは強盗容疑で60年の実刑判決を受け獄中へ。生活は貧窮しブロンクスやハーレムを転々とする。
1983年
- 2パックの実の父親とされるレッグスがアフェニと同居を始め、彼女にクラックを教える。
- 9月、ジェシー・ジャクソンの選挙資金調達のためのイベントでアポロ劇場の舞台に立ち「A Risin In The Sun」でトラヴィス役を演じる。2パックにとって初の人前でのパフォーマンス。のちに「あれですっかりその気になっちまった」と語る。
1986年
- 6月、ボルティモアに移る。それに際し服役中のレッグスに連絡をしたところ、クラックで41歳の生涯を閉じていたことが判明。
- スクール・フォー・アーツで演劇を学び、ジェイダ・ピンケットと友人になる。またこの頃、高校の友人が銃でふざけていて暴発し命を落としたことをきっかけに初めてリリックを書く。評判がよかったためラッパーを志すようになり、MCニューヨーク名義でラップを始める。
1988年
- 貧困のため祖母を頼ってカリフォルニア州マーリン・シティに移る。この頃から生活が荒れ始め高校をドロップ・アウトし(のちに大検取得)、ドラッグ売買に手を染める。
1989年
- レイ・ラヴとストリクトリー・ドープを結成。
1990年
- デジタル・アンダーグラウンドにローディ兼ダンサーとして加入、来日も果たす。また同グループのグラミー・ノミネート曲「Same Song」にラッパーとして参加。
- ツアー中に母アフェニがクラック中毒であることを知りショックを受ける。
This Is An EP / Digital Underground(デジタル・アンダーグラウンド)
ほとんど無名の2Pac(トゥパック)がラップで参加した「Same Song」を収録した、Digital Underground(デジタル・アンダーグラウンド)の2作目。 この曲を機にキャリアを重ねていった2Pac(トゥパック)は、スターダムへの階段をかけ上がっていく。 |
1991年
- 10月、オークランドで道路を歩行中、道交法違反で2パックを逮捕した警官に暴行を働いたとして訴えられる。
- 11月、ソロ・デビュー作「2Pacalypse Now」発表。若いシングル・マザーや腐敗した警察官の問題などに言及したコンシャスな内容。
2Pacalypse Now / 2Pac(トゥパック)
2Pac(トゥパック)のソロ1作目。 代表曲は「Brenda’s Got A Baby」「Trapped」など。 …詳細を見る |
1992年
- 1月、映画「Juice」公開(アーネスト・ディッカーソン監督)。準主役のビショップ役を好演。名台詞は「I am crazy. And I don’t give a fuck!」。
- フォース・ワン・ネットワークのレコーディングに参加。
- 4月、テキサスの19歳の青年による騎馬警官殺害事件の裁判で、弁護人は、2パックが激しく警官批判した「2Pacalypse Now」を被告が聞いたことが事件の引き金になったと主張。2パックは警官殺しを奨励などしていないと反論。
- 8月、古い知人と口論が発砲を誘発し、通りかかった6歳の男の子が流れ弾にあたって死亡。2パックのハーフ・ブラザー、モーリス・ハーディングが逮捕されたが証拠不十分で不起訴となる。
- 9月、前記テキサスの裁判を受けて、当時のダン・クエール副大統領は「2Pacalypse Now」の回収を要請。(レコード会社の)インタースコープはこれを拒否。
映画「Juice」 / オリジナル・サウンドトラック
1993年
- 2月、セカンド「Strictly 4 My N.I.G.G.A.Z.」発表。前作から引き続いてのポジティヴな問題提起に加え、ロジャーをサンプルしたアフリカン・アメリカン女性賛歌の「Keep Ya Head Up」を収録。
- フォース・ワン・ネットワークのレコーディングに参加。
- 3月、ハリウッドに滞在中、リムジン内でマリファナを吸い、それを嫌った運転手と口論となり訴えられる(のちに取り下げとなる)。
- 4月、ミシガンで地元ラッパーのショウに乱入し、野球のバットを振り回して脅したため逮捕され、10日間拘留される。
- 7月、ジャネット・ジャクソンとの共演映画「Poetic Justice」(ジョン・シングルトン監督)公開。2パックは郵便局に勤めるシングル・ファーザー、ラッキー役。
- 10月、アトランタで非番警察官の兄弟と争いになり発砲したとして逮捕される(55,000ドルで釈放)。事の発端は2パックと仲間が乗った車が、道路を横断していた片方の警官の妻を危うくはねるどころだったことから口論となり、怒った警官が銃を向けたこと。
- 11月、ファンの19歳の女性が2パックと3人の仲間にNYのホテルで性的虐待を受けたとして告訴する。
- 12月、ジョン・シングルトン監督が映画「Higher Learning」から2パックを降板させる。
Strictly 4 My N.I.G.G.A.Z. / 2Pac(トゥパック)
2Pac(トゥパック)のソロ2作目。 代表曲は「Keep Ya Head Up」「I Get Around」「Holler If Ya Hear Me」など。 …詳細を見る |
映画「Poetic Justice」 / オリジナル・サウンドトラック
映画「Poetic Justice」 / DVD作品
1994年
- 3月、映画「Above The Rim」公開。麻薬の売人、バーディ役を好演。
- 以前、映画「Meance II Society」から降板させられた恨みでアレン・ヒューズ監督を殴打、15日間の実刑判決が下る。
- 7月、警官を殺害したミルウォーキーのディーンエイジャーふたりが、裁判で2パックの「Soulja’s Story」に触発されての犯行と語る。
- 10月、実兄モプリームを含むサグ・ライフのアルバム「Thug Life Vol.1」発表。
- 11月30日、リトル・ショーンのレコーディングに参加するためNYのクワッド・スタジオに向かったところ、スタジオのあるビルのロビーでふたり組の強盗に襲われ、40,000ドル相当の宝飾品を奪われたうえに5発の銃弾を浴びて重症を負う。病院に搬送されて手術を受けた3時間後、性的虐待容疑の裁判に痛々しい車椅子姿で出廷。
映画「Above The Rim」 / オリジナル・サウンドトラック
映画「Above The Rim」 / DVD作品
Thug Life Vol.1 / Thug Life(サグ・ライフ)
Thug Life(サグ・ライフ)の1作目。2Pac(トゥパック)名義の作品ではないが、多くの曲に参加している。名曲も多い。 代表曲は「How Long Will They Mourn Me? 」「Don’t Get It Twisted 」など。 |
1995年
- 2月、前記裁判で1年半から4年半の実刑判決が下り、ライカーズ刑務所に送られる。
- 4月、サード作「Me Against The World」発表。名曲「Dear Mama」収録。
- 長年のガールフレンド、キーシャ・モリスと獄中結婚する(のちに離婚)。
- 2パックは米「Vibe」誌の獄中インタヴューに応えて、サグな生き方はもう終わりにして、出所後はポジティヴに生きたいと語る。また前年11月の事件はパフィ、ビギー、アンドレ・ハレル、そして親友であるストレッチらによって仕組まれたものだと考えていることを示唆。
- 8月、パフィとビギーが米「Vibe」誌に、2パックの銃撃事件とは何の関係もないことを表明する広告を掲載。
- 10月、デス・ロウ社長シュグ・ナイトが1,400,000ドルの保釈金を支払って釈放された2パックは、そのままLAに直行してデス・ロウと契約、即座にレコーディングを始める。
- 11月30日、2パックの銃撃からちょうど1年後、何者かに殺害されたストレッチの遺体がクイーンズで発見される。
Me Against The World / 2Pac(トゥパック)
2Pac(トゥパック)のソロ3作目。比較的メロウな曲が多い。 代表曲は「Dear Mama」「So Many Tears」「Me Against The World」など。 …詳細を見る |
1996年
- 2月、2パックが米「Vibe」誌のインタヴューで、ビギーの妻フェイス・エヴァンスと肉体関係を持ったことを匂わせる発言をする。しかしフェイスはこれを否定。
- デス・ロウ移籍第一弾「All Eyez On Me」リリース。ラップ・アルバムとしては初の2枚組みで、ドクター・ドレがプロデュースし故ロジャーがゲスト参加した「California Love」、ギャングスタ・ラップ・バッシングで有名なドロレス・タッカーに向けた一節を含む「How Do You Want It」などを収録。
- 3月、「Soul Train Awards」授賞式の楽屋でデス・ロウ勢とバッド・ボーイ勢が顔を合わせ、発砲寸前の緊張状態が引き起こされる。
- 映画「Gridlock’d」の撮影に入る。温厚で情に厚い「いいヤツ」のベース・ギター奏者スプーン役で、この役は自分の素に近いと語る。
- 5月、スヌープとの共演曲「2 Of Americaz Most Wanted」をシングル・カット。同曲のプロモーション・ヴィデオではパフィとビギーのそっくりさんをいたぶる。
- 6月、ビギーをはじめとするバッド・ボーイ勢やモブ・ディープなどへの激しいディス・ソング「Hit ‘Em Up」リリース。
- 8月、映画「Gang Related」クランク・アップ。上司の悪徳警官に逆らえず犯罪に手を染める若い警官ロドリゲス役を演じる。この映画について「極悪なギャングも、道義心に燃える警察官も、人間はみな自分のもろさに怯えているんだ」と語る。
- 9月7日、ラスヴェガスでマイク・タイソンvs.ブルース・セルドンの試合をシュグ・ナイトとともに観戦した帰路、何者かにドライヴ・バイで銃撃され重体となる。
- 9月13日、午後4時03分、死亡。享年25歳。
- 11月7日、事件の際、後部座席に同乗しており目撃者として警察の捜査に協力していたアウトロウズのヤフー・フラーが、ニュージャージーで何者かに頭部を撃たれて死亡。
- 11月、マキャベリ名義の遺作「The Don Killminati: The 7 Day Theory」発表。
All Eyez On Me / 2Pac(トゥパック)
2Pac(トゥパック)のソロ4作目。ラップ・アルバムとしては初の2枚組み。 代表曲は「California Love」「How Do You Want It」「2 Of Americaz Most Wanted」など。 …詳細を見る |
The Don Killminati: The 7 Day Theory / Makaveli(マキャベリ)
2Pac(トゥパック)の遺作となったソロ5作目。Makaveli(マキャベリ)という名前でリリース。 代表曲は「To Live & Die In L.A.」「Toss It Up」「Hail Mary」など。 …詳細を見る |
1997年
- 1月、映画「Gridlock’d」公開。
- 2月、元デジタル・アンダーグラウンドのチョップマスターJ所収のストリクトリー・ドープ時代など初期の未発表曲集「Static – A Tupac Shakur Story」発表。
- 3月9日、ビギーがLAでパーティに出席した帰路、ドライヴ・バイで何者かに狙撃されて死亡。
- 映画「Gang Related」公開。
映画「Gridlock’d」 / オリジナル・サウンドトラック
ドラッグの過剰摂取で意識不明となった仲間を目の当たりにした親友同士のふたりの若者が、ヤクから足を洗うというストーリー。 これまでのサグなイメージとはちがう、比較的やさしい2パックの姿をみることができる。 |
映画「Gridlock’d」 / DVD作品
映画「Gang Related」 / オリジナル・サウンドトラック
映画「Gang Related」 / DVD作品
1998年
- 2月、死後、最初の未発表曲集「R U Still Down? (Remember Me)」発表。2枚組。
R U Still Down? (Remember Me) / 2Pac(トゥパック)
2Pac(トゥパック)の没後にリリースされた、2枚組みの未発表作品。 200曲以上のアカペラが存在するというウワサも。。 …詳細を見る |
1999年
- 2月、未発表トラック4曲を含むベスト盤「Greatest Hits」発表。これも2枚組。
- 6月、元デジタル・アンダーグラウンドのチョップマスターJ所収の93~94年のフォース・ワン・ネットワークとのセッションなどを含む未発表曲集「The Here After」発表。
- 12月、アウトロウズとの未発表共演曲集「Still I Rise」発表。
Greatest Hits / 2Pac(トゥパック)
初の2枚組みベストアルバム。2Pac(トゥパック)初心者は、これだけ押さえておけばいい。 生前の主要曲がほとんど収録されているほか、「California Love」のオリジナルバージョンと、最凶のディス曲「Hit ‘Em Up」などがアルバム初収録。 …詳細を見る |
2Pac + Outlawz: Still I Rise / 2Pac+Outlawz(トゥパック・アウトロウズ)
2Pac(トゥパック)と、彼周辺のグループOutlawz(アウトロウズ)による共同作品。 …詳細を見る |
2000年
- 6月、元デジタル・アンダーグラウンドのチョップマスターJ所収のストリクトリー・ドープ時代の89年音源を中心とする未発表曲集「The Lost Tape」発売。
- 11月、2パックの未発表詩集「The Rose That Grew From Concrete」に収められた詩を、ラップ、歌、ポエトリー・リーディングなどにした同タイトルのアルバム発表。モス・デフ、Qティップ、K-Ci、ソニア・サンチェスなど各分野から多数の参加者が集まった。
2001年
- 5月、2枚組未発表曲集「Until The End Of Time」発表。
Until The End Of Time / 2Pac(トゥパック)
2Pac(トゥパック)の没後にリリースされた、2枚組みの未発表集。 Outlawz(アウトロウズ)のメンバーが、多く参加している。 …詳細を見る |
2002年
- 11月、未発表曲集「Better Dayz」発表。またまた2枚組。
Better Dayz / 2Pac(トゥパック)
2Pac(トゥパック)の未発表集。またもや2枚組み。 Nas(ナス)らが参加した「Thugz Mansion」は、めずらしくアコースティックな曲。 …詳細を見る |
2003年
- ダズ所収の未発表曲集「Don’t Go To Sleep」がマキャヴェリ&ディリンジャー名義で発表される。
- 9月、デス・ロウ在籍時の音源のリミックス盤「Death Row Presents: 2Pac G.H. Nu Mixes」発表。
- 11月、2パックの生涯を追ったドキュメンタリー映画「Tupac: Resurrection」発表。
Nu-Mixx Klazzics / 2Pac(トゥパック)
2Pac(トゥパック)デス・ロウ在籍時にリリースした音源のリミックス作品集。 …詳細を見る |
映画「Tupac: Resurrection」 / オリジナル・サウンドトラック
映画「Tupac: Resurrection」 / DVD作品
2004年
- 8月、ライブ音源アルバム「Live」発表。
- 12月、Eminem(エミネム)監修の未発表作品「Loyal To The Game」発表。
Live / 2Pac(トゥパック)
2Pac(トゥパック)デス・ロウ在籍時にリリースした音源のリミックス作品集。 …詳細を見る |
Loyal To The Game / 2Pac(トゥパック)
Eminem(エミネム)が総合的にプロデュース。ラップでも参加しています。 …詳細を見る |
2006年
- 未発表曲集「Pac’s Life」発表。
Pac’s Life / 2Pac(トゥパック)
彼の死後、10年経っても新譜が出るのはすごい。 …詳細を見る |
2007年
- 8月、デュエット曲を含むリミックス盤「Nu Mixx Klazzics Vol.2 (Evolution: Duets And Remixes)」発表。
- 11月、2パックのベスト盤「The Best Of 2Pac」シリーズのパート1とパート2を同時リリース。
Nu Mixx Klazzics Vol.2 (Evolution: Duets And Remixes) / 2Pac(トゥパック)
リミックス盤「Nu Mixx Klazzics」シリーズの続編。既存の曲を他アーティストといっしょに擬似競演するのがテーマ。 …詳細を見る |
The Best Of 2Pac (Part 1: Thug) / 2Pac(トゥパック)
生前のオリジナル・アルバムから没後の未発表作品集までの作品を厳選したベスト盤。 …詳細を見る |
The Best Of 2Pac (Part 2: Life) / 2Pac(トゥパック)
生前のオリジナル・アルバムから没後の未発表作品集までの作品を厳選したベスト盤。 …詳細を見る |
まとめ
死後のほうが圧倒的に作品をリリースしているという2Pac(トゥパック)。死を予期して、かなりの量のラップをレコーディングしていたそうだが、これだけ未発表曲があると「2Pac生存説」も信憑性を帯びてくる。
ギャングスタ・ラップの浸透に多大な貢献をした立役者は、反逆のカリスマ的存在となった。マスメディアによって加熱しすぎたシーンは危うく、「東西戦争」と銘打たれた抗争(ビーフ)は、2Pac(トゥパック)の死、そして対立相手であったビギー(the Notorious B.I.G.)もまた葬り去られ、幕を閉じた。
●To Live & Die In L.A. / 2pac
残念ながら、L.A.で死ぬことはできなかったようだが、彼の作品は残り続けるし、彼に影響を受けて活躍する「ポスト2パック」もたくさんいる。
25歳という若すぎる生涯でここまで多くの人間に影響を与えた2Pac(トゥパック)の偉大さを改めて実感したのだった。