歌の上手い女性シンガーには、「歌姫」の称号が与えられる。イタリアで言うところの「Diva(ディーヴァ)」というやつだ。そしてその歌姫は1990年代から急激に増加した。
おそらく「ヒップホップ音楽とディーヴァの組み合わせが儲かる」と気づいたビジネスライクな人たちの仕業だ。彼らはヒップホップとR&Bの親和性が高いと知るや否や、ラッパーとディーヴァを組み合わせてヒットを飛ばすという「方程式」を編み出した。
そこからヒップホップ・ビジネスは飛躍的にその市場規模を拡大していったのである。
クイーン・オブ・ヒップホップ・ソウル
この方程式にぴったりとハマったシンガーといえば、Mary J Brige(メアリー・J・ブライジ)が思い浮かぶ。彼女は一流のR&Bシンガーであると同時に、ヒップホップ作品にたびたび客演するヒップホップ・ディーヴァでもあった。
Real Love / Mary J Blige (1992年)
Real Love (Remix) [Feat. The Notorious B.I.G.] / Mary J. Blige (1993年)
Mary J Blige(メアリー・J・ブライジ)は、ヒップホップ音楽を乗りこなしながら歌い上げるという荒技をやってのけた。「クイーン・オブ・ヒップホップ・ソウル」と呼ばれる所以である。
I’ll Be There For You / You’re All I Need To Get By (Remix) [Feat. Mary J Blige] / Method Man (1995年)
Mary J Blige(メアリー・J・ブライジ)とヒップホップの邂逅。そしてクイーン・オブ・ヒップホップ・ソウルの誕生。このあたりから急速にヒップホップとR&Bが親密度を深めていったようだ。
歌とラップを内包するグループ
ラッパーとディーヴァを組み合わせるなら、はじめからグループ内にそれらの役割をもったアーティストがいれば話が早い。
3人組女性ユニットTLCは、T-Boz(Tボズ)、Chilli(チリ)が歌い、Left Eye(レフト・アイ)がラップする。これにより、グループ内で方程式の条件を満たした。
Waterfalls / TLC (1994年)
No Scrubs / TLC (1999年)
Black Eyed Peas(ブラック・アイド・ピーズ)もまた、女性シンガーのFergie(ファーギー)が加入してからグループ内で方程式を満たすことができた。
Don’t Lie / Black Eyed Peas (2005年)
1人で方程式を満たしたシンガー
グループ内でラッパーとディーヴァを組み合わせるというのであれば、Lauryn Hill(ローリン・ヒル)はもっとすごい。
彼女は歌唱力とラップのスキルを兼ね備えたハイブリッドなアーティストだ。「ラッパーとディーヴァを組み合わせてヒットを飛ばす」という方程式を、ひとりで成立させている完璧なアーティストなのである。
Doo Wop (That Thing) / Lauryn Hill (1998年)
方程式に当てはめればすべてうまくいくのか?
1990年代から2000年以降、ラッパーとディーヴァの組み合わせを使ったヒット曲がたくさん生まれた。言いかえれば、ブラック・ミュージックが大金を生むビジネスとして成立したことになる。
ヒットした曲の多くは、ヒップホップやR&Bを超えた、もはやポップスと言ってもいいほど耳心地が良い。そんな大衆向けにカスタマイズされたヒップホップは、2000年前後の音楽市場を賑わせた。
以下に一般にも聴きやすくカスタマイズされた作品を貼っていく。
You And Me [Feat. Kelly Price] / LL Cool J (2001年)
Always On Time [Feat. Ashanti] / Ja Rule (2001年)
Dilemma [Feat. Kelly Rowland] / Nelly (2002年)
デビュー時の売名にも便利
ラッパーとディーヴァの組み合わせは、この時代の一種のトレンドとなっていた。そのため、シンガーの名前のを売るために、有名なラッパーを客演に迎えることもある(その逆もしかり)。
基本的に同じレコード会社の新人シンガーを売り出すために、どうレコード会社所属のベテラン・ラッパーを客演させるというのが常套手段である。
新人の売名という以外にも、ヒップホップ・アーティストとR&Bアーティストのファンを交換できるというメリットがある。また、普段ではぜったいに見られないような組み合わせによって、意外な相乗効果を生む場合もある。
I’ve Committed Murder [Feat. Mos Def & Gang Starr] / Macy Gray (2000年)
Ice King [Feat. Nas] / Res (2001年)
Blow My Whistle [Feat.Foxy Brown] / Utada Hikaru (2001年)
まとめ
ラップのみで構成されている曲を抵抗なく聴けるのは、ヒップホップ・ヘッズだけだ。大衆に向けた曲をつくるなら、やはり歌があったほうが聴きやすい。
カラーの絵本を読んでいる人たちに、白黒の活字を読ませるようなものだと考えるとわかりやすい。歌唱やメロディーが色彩の役割を果たし、その「カラフルな挿絵」を入れることで、活字(ラップ)をわかりやすくするのだ。
ラッパーとディーヴァ(歌姫)の組み合わせ方、バランスのとり方は曲によってさまざま。ラップの曲に、少しだけ歌が入っているものもあれば、ほとんど歌で、アクセント的にラップが入るだけの曲もある。
色々な曲のグラデーションを楽しんでみるのもいいだろう。
今回紹介した曲リスト
- Real Love / Mary J Blige (1992年)
- Real Love (Remix) [Feat. The Notorious B.I.G.] / Mary J. Blige (1993年)
- I’ll Be There For You / You’re All I Need To Get By (Remix) [Feat. Mary J Blige] / Method Man (1995年)
- Waterfalls / TLC (1994年)
- No Scrubs / TLC (1999年)
- Don’t Lie / Black Eyed Peas (2005年)
- Doo Wop (That Thing) / Lauryn Hill (1998年)
- You And Me [Feat. Kelly Price] / LL Cool J (2001年)
- Always On Time [Feat. Ashanti] / Ja Rule (2001年)
- Dilemma [Feat. Kelly Rowland] / Nelly (2002年)
- I’ve Committed Murder [Feat. Mos Def & Gang Starr] / Macy Gray (2000年)
- Ice King [Feat. Nas] / Res (2001年)
- Blow My Whistle [Feat.Foxy Brown] / Utada Hikaru (2001年)