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ヒップホップの定義は毎年更新される。『ラップ・イヤー・ブック』読後雑感

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ヒップホップに衝撃を受けるタイミングは人によってちがう。衝撃を受けたその時が、それぞれのヒップホップの入口となる。

それは「ランDMC」かもしれないし、「エミネム」かもしれない。近年なら「フリースタイル・ダンジョン」から入ることも多分にあるだろう。

いちどヒップホップの世界を知ったら、そこから新作を追ったり、気になるアーティストの過去作をさかのぼったりして、歴史のマップをつくっていく。

新しいアーティストを知り、好きなラッパーやプロデューサーが次々と見つかると、自分の中にある「ヒップホップ像」が拡大されていく。

次々と新しい作品が誕生するヒップホップ。この世界で肝心なのは「こまめなアップデート」だ。ずっと新作を追っていれば気にならないが、ちょっとブランクがあくと、まったく知らない作品がヒットしていたりする。

ヒップホップとは、アップデートをサボるとあっという間に着いていけなくなる音楽なのだ。

いちど置いてけぼりを食うと、追いつくのが大変になる。「ヒップホップの定義」は日々変わっていくのに「自分の定義」は固定されたまま止まってしまう。

最新のヒップホップが新たなヒップホップの解釈を提示しても、それを認識できない。新譜を聴いても、良さがわからなくなる。最近の作品はよくわからないから、大好きな時代の過去作を楽しんでいればいいと思ってしまう。

自分が認識している「ヒップホップの定義」を更新する

自分の中の「ヒップホップ像」が更新されないと、まだ見ぬ名曲への好奇心が失われてしまう。これではヒップホップから離れていくのは時間の問題である。

いつまでもヒップホップを楽しむには、楽しんでアップデートをし続けることだ。よくわからない新しい作品でも、楽しんでいる人がたくさんいるから売れているのである。ということは、ちゃんと「楽しみ方」がある。

ヒントは「流れ」だ。「流れ」というのは「歴史」であり、すなわち「物語」である。

ヒップホップは「画期的な進化」の連続でできた物語だ。ヒップホップの歴史を変えた転換点を、順番に追っていくことで、それが物語のように見えるのである。

ヒップホップの歴史を俯瞰するのに最適

この本(『ラップ・イヤー・ブック イラスト図解 ヒップホップの歴史を変えたこの年この曲』)には、1979年から2014年までの35年間が凝縮されている。

これを読めば、毎年新しいヒップホップの概念を広げていった経緯がわかる。1年ごとに訪れる、画期的な進化の「転換点」を見ていくと、ヒップホップの歴史を俯瞰できる。

最新のヒップホップがどんな形であれ、連綿とつながれた歴史の最終形態であるのは事実。ここに至るまでの意味が「つながれ」ば、ヒップホップの最終形態である、今現在の楽曲にも興味を持てるようになるだろう。

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1年につき1曲しか紹介しないという「しばり」を設けることで、時間の流れにスピード感が出ている。たった35曲で、35年間の歴史をつかめるのは非常に効率がよい。

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「どうしてこの曲が画期的だったのか」。その理由をちゃんと理解できたら、本書で紹介されている曲を聴いてみたくなるはずだ。

これこそが、新たなヒップホップの概念の獲得である。

参考書籍