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エッセイ

「リリック」と「快楽」、あとZORN(ゾーン)

「生き様」と「ビジネス」

ヒップホップにおける「ラップ」は、自分の生き様を表現する手法である。当然、リリック(歌詞)は自分で書く。他人が書いたリリックをラップする曲もあるが、それは自己表現とは別の目的がある。つまり、ビジネスの側面が強い。

ヒップホップ創世記(いわゆるオールドスクールと呼ばれる時代)から、他人が書いたリリックをラップする曲はたくさんあった。商業向けのラップ作品がヒット・チャートを賑わせたことで、ラップ・ミュージックが世界的に認知されたことは否めない。その点では、商業向けのラップにも功績を称えるべきである。

ただ、個人的には、自分の生き様をラップで表現しているアーティストこそが、ヒップホップだと思っている。リリックを自分で書くのか、それとも他人が書くのか。この線引きを意識しておきたい。

「歌詞」と「快楽」

ところで私は、ラップを聴くときに、「耳の気持ちよさ」を無意識に求めている。自分の生き様がラップに出ると言っておきながら、リリックの内容をほとんど気にしないで聴いているのである。

重視しているのは3つ。①トラックがよくて、②いい声で、③自分のフロウを持っている。これだけだ。

これら3つは、私が曲に興味をいだくまでの最初の関門である。3つの条件が揃って、「この曲いいな」となり、聴き込むフェーズに入る。したがって、リリックの内容は気にしていない。何度も聴いているうちにリリックの内容が入ってきて、「こんなこと言ってたんだ〜」と理解し、関心したりする。

ラップに限らず、すべての音楽で、こういう聴き方をしているため、「歌詞重視型」の聴き方をしいている人にとっては、理解不能なのかもしれない。

だから、「歌詞の内容が素晴らしい」という理由で曲をオススメされても、トラック、声、フロウがピンと来なかったら、興味を持てないのである。というか、魅力に気づける段階にまだいないとも言える。

何年も経って、昔紹介された曲にハマるケースもある。こればっかりはタイミングというよりほかない。

ただし、ひとたび3拍子揃ったアーティストが見つかると、一気に興味が出てきて、短時間でリサーチしまくることになる。ハマれば永久にリピートするぐらいの勢いだ。

最近だと、ZORN(ゾーン)のラップが気持ちよくて、よく聴いている。

ZORN(ゾーン)の概略

ZORN(ゾーン)については、現在のシーンを見ているヘッズに知らない人間はいないと思うが、いちおう概略を記しておく。

10代の頃からヒップホップの活動を開始。当初は、Zone The Darkness(ゾーン・ザ・ダークネス)という名義で活動。フリースタイルのラップ・バトルに出場して、戦績を残す一方で音源制作もし、アルバムを発表している。

ZORN(ゾーン)のアルバム

  • 2009年『心象スケッチ』※Zone The Darkness名義
  • 2010年『THE N.E.X.T.』※Zone The Darkness名義
  • 2011年『ロンリー論理』※Zone The Darkness名義
  • 2012年『DARK SIDE』※Zone The Darkness名義
  • 2014年『サードチルドレン』
  • 2015年『The Downtown』
  • 2016年『生活日和』
  • 2017年『柴又日記』
  • 2019年『LOVE』

ほぼ毎年コンスタントにアルバムを出している。普段はウイーク・デイで別に仕事を持っているというのだから、これはかなりすごいことだ。

2014年に般若(ハンニャ)主催のレーベル【昭和レコード】に加入。アルバム5枚リリーズ後、2019年にレーベルを脱退。現在は個人で活動している。

ZORN(ゾーン)の楽曲紹介

キャリア序盤の作品で有名な曲といえば、『奮エテ眠レ』や、『雨、花、絵描き。』などが挙げられる。

『奮エテ眠レ』は、状況描写力、自己啓発マインド養成力、そしてその熱量がダイレクトに伝わってくる。自分のことをラップしているのだろうが、リスナーのチャレンジにも背中を押してくれるような気がする。

『雨、花、絵描き。』は典型的なポエトリー・リーディング、すなわち、降神(オリガミ)や、TBH(ザ・ブルー・ハーブ)、Shing02(シンゴツー)などに見られるスタイルだ。

意味の通ったストーリーをオチもつけて終始ラップで表現するという、非常に高度なテクニックを持つラッパーは、ひと握りの存在である。

『奮エテ眠レ』 / ZONE THE DARKNESS

『雨、花、絵描き。』 / ZONE THE DARKNESS

昭和レコード時代には、アルバムを5枚も出している。素晴らしい楽曲が多すぎて、すべてを紹介することはできない。

個人的に印象的だったのが、『かんおけ』という曲。死生観をラップに乗せて語る、シリアス路線の名曲で、後半にかけて盛り上がっていく流れに、Nas(ナズ)の『One Mic』を感じた。

『かんおけ』 / ZORN

『One Mic』 / Nas

ほかにも『My Life』や『Letter』などの日常系路線もあれば、他アーティストの客演でキレキレのラップを披露する『百千万 (Remix)』や『McLaren (Remix)』、『RGTO (Remix)』など、枚挙にいとまがない。

直近でいちばんのお気に入りが、客演にオジロのMaccho(マッチョ)を迎えた『Rep』だ。

この曲は、ZORN(ゾーン)の地元、新小岩と、Maccho(マッチョ)の地元、横浜をそれぞれレペゼンしている内容をラップしていて、双方ともに、とんでもない異次元のライミングをぶちかましている。

また、Ozrosaurus(オジロザウルス)時代のマスターピース『Area Area』のリリックを文字ってラップするZORN(ゾーン)のMaccho(マッチョ)へのリスペクトを感じる1曲。

『Rep』 [Feat. MACCHO] / ZORN

何回聴いても飽きないのは、いい声で、自分のフロウを駆使しながら、気持ちよく韻を踏み倒しているからだ。ビートに対するアプローチも抜群にうまい。

ライミングに関しても、言葉選びのセンスが際立っている。ハーコーなスタイルでラップしているところに、突然「キティちゃんの宝石箱」を持ってこれるセンスがすごい。

何よりZORN(ゾーン)のもつ等身大の人間性がラップに込められているのが魅力である。変に背伸びをせずに自己表現できるという時点で、すごいことだ。

今後も、気持ちいいラインをつくり続けて欲しいと思えるラッパーである。

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