栃木が舞台のシリーズ3作目。北関東シリーズの完結編と銘打った今作は、1作目の「その後」といった内容。
埼玉で、Ikku(イック)とTom(トム)らと組んでいたグループ、Sho-gung(ショーグン)を脱退し、上京したMighty(マイティ)の物語。
1、2作目との違い
前2作においては、「ヒップホップでメシを食っていくぞ!」とか、「ライブがやりたい!」という、自分がヒップホップのプレイヤーとして活躍する場を望んでいた。
ところが今作では、「ヒップホップで、ひと儲けしたい!」という、厄介そうな人たちが出てくる。むしろ、儲かるのであれば、ヒップホップでなくてもいい、という人たちだ。
夢でメシは食えない。ならば、夢でメシを食っていこうとする奴らを食い物にすればいい。
上京したMighty(マイティ)は、夢と決別し、栃木で「あこぎ」な仕事を始めたのであった。
夢を追っている方がラク
イベントを打って、会場を押さえ、アーティストを出演させて、収益を出す。
枝の末端が、チケットを売りさばいて集客するシステムでは、下っ端の人間が大量のチケットを捌かなければならない。
ピラミッドのトップにいる数人の幹部には、大きなお金が入ってくる。
しかし、下っ端の人間は、大量のチケットを売り切らなければ未来はない。
夢を食い物にする人間のうち、私腹を肥やすことができるのは、少数派である。
どっちが「カモ」か
夢を活力にして生きているIkku(イック)とTom(トム)は、高額なイベント出演料を請求されても、自分の信念に従って出演する。
イベントの収益構造からみて、彼らは完全に「カモ」である。
しかし、「集客が保障されている環境でのライブ」や、「同じ志をもつ同志たちとの出会い」を考えれば、決して高い買い物ではない。
しくじったら、ヒドイ目にあわされる恐怖感におびえながら、どんなことをしてもチケットを売り切る必要があるイベント主催者の末端。
彼らが「カモ」で、いちばん割を食っているのだ。
ハーコー・テイストな今作
今回は、マンガ「闇金ウシジマくん」に登場しそうなキャラクターのオンパレードで、これまでの「のほほん」とした雰囲気とは違った作品に仕上がっている。
闇金ウシジマくん(1) (ビッグコミックス) (2012/09/25) 真鍋昌平 |
ヤクザとは言わないが、限りなくそれに近い存在のチンピラ。そして、何らかの弱みを握られている(と思われる)従事者たち。
そして、なんと言っても、本職のラッパーを起用した、「本格的なマイクパフォーマンス」は、今回が初といっていいだろう。
これによって、パフォーマンス中に感じる「見てるこっちが恥ずかしい」という感情は生まれなかった。
むしろ、今回劇中に登場したマイクバトルや、オーディション、イベント。それぞれで聴くことができるラップは、かなり完成度が高い。
それは、ラップの「痛い」部分ではなく、ヒップホップがもつ「ハードコア」なイメージが描かれていたからだろう。
冒頭の、極悪鳥というグループも、絵に描いたような日本のハードコア・ヒップホップ・グループを表現している。
こんなのがいても、まったくおかしくない。
本格指向に隠された意図
パフォーマンスを「本格指向」にしたのは、映画の先にある、リアルなツアーを見込んでのことではないだろうか。
映画内のキャラクターが、現実世界で興行すれば、それもまた、ヒップホップ・ビジネスとして成立するはずだ。
少なくとも、中途半端にアーティストを気取っている人間より、Sho-Gung(ショーグン)が踏んだ「場数」の方が、はるかに多い。
映画から、ヒップホップ・グループや、彼らの楽曲を売る。
その楽曲が存在する根拠は、映画の中で示されている。
聴き手にもわかりやすいから、アーティスト(キャラ)や、楽曲にも感情移入しやすい。
CDが売れない、と嘆くこの時代。「音楽を売る」というのは、こういう方法も有効なのだ、と思った。
参考動画
●(タイトル不明) / 征夷大将軍 (2012.05.15 in新宿ロフト)
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=v4nJJBc78NM[/youtube]
栃木県日光市レペゼンのヒップホップ・グループ、征夷大将軍。本職のラッパーで構成されている。動画は、映画公開記念のライブ。
●見てんぞ / 極悪鳥
[youtube]http://www.youtube.com/watch?v=kHHUEuaId7I[/youtube]
役者で構成された、東京のハードコア・ヒップホップ・ユニット。メンバーのMC 林道(リンドウ)役は、映画「ムカデ人間」に出演している北村昭博(キタムラ・アキヒロ)。
参考作品
SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者 [DVD] (2012/11/21) 奥野瑛太 |