小学生のころ、叔父からのプレゼントで、我が家にCDラジカセが届いた。CDラジカセとは、ラジオとカセット、CDが一体になった複合音楽プレーヤーである。
このCDラジカセには、なぜか付録でRay Charles(レイ・チャールズ)「Ellie, My Love」という短冊シングルCDが付いていた。(「Ellie, My Love」は、サザン・オールスターズの「いとしのエリー」をレイが英語でカヴァーしたもの)
Ellie, My Love / Ray Charles
家にはこれしかCDがなかったので、これを延々と聴いていた。当時はサザンの曲もよく知らないほど音楽に疎い小学生。レイ・チャールズの「Ellie, My Love」が原曲で、サザンの「いとしのエリー」は日本語カバーなのだと思っていた。
父親が買ってきた3枚のアルバム
それから数週間、あるいは数ヶ月が経過したある日、父親がセールでCDアルバムを買ってきた。ちなみに父親も母親もとくに音楽に興味がない。
買ってきたCDはまだ覚えている。久保田利伸『BONGA WANGA』、Wink『Hot Singles』、PRINCESS PRINCESS『PRINCESS PRINCESS』の3枚。
どうしてこの組み合わせだったのかは不明である。
そして、とある休日。ひとりで家の留守番をしているときに久保田利伸のアルバム『BONGA WANGA』を頭から最後まで歌詞カードを見ながら聴いてみたことがあった。
小学生にとっては大人すぎる内容。歌詞はあまり理解できなかった。それでもアルバムがファンキーなのは理解できた。
ブックレットを見ながら音楽を聴いていると、しだいに現実世界から離れて音のつくりだす世界に吸い込まれるような気分になった。このトリップ感覚によって、生まれてはじめて本当の音楽の魅力を知れたような気がしたのだった。
アルバム『BONGA WANGA』について
このアルバム『BONGA WANGA』には、ブラック・ミュージックのエッセンスが詰まっている。
まず冒頭の「Feel so real」から「大ボラ of LIFE」の流れがまずカッコイイ。なんの予備知識もない小学生が純粋にカッコイイと思えるという作品。こういうのが本物の名盤なのだろう。
●Feel so real 〜 大ボラ of LIFE / 久保田利伸
バラード曲は子供の時分にはまだ早かったようで、あまり聴かなかった。それでも年齢とともにバラードの良さも理解できるようになる。それでも「大ボラ of LIFE」や「Be wanabee」「SHOOT THE HOOP!」みたいなファンキーな曲はずっと好きだった。
恋愛をバスケに喩えた「SHOOT THE HOOP!」に出てくる「homeboy」という単語の意味が知りたくなり、書店でいろんな英和辞典を立ち読みして「homeboy」を引いてみたが、どこにも載っていなかったという思い出がある。
後に、中学生になって「スラング」という普通の辞典に載っていない単語があることを知ることになる。(「スラング」についてはHIP HOPスラング辞典を参照)
生バンドの演奏がアツい「MIXED NUTS」は、曲中の「俺たちの神様は King of Soul ジェームズ・ブラウン」というラインは、黒人音楽の文化を踏襲していますよという宣言である。
さらに、壮大なスケールのなかでラスタファリアニズムを感じさせる「No more rain」「MAMA UDONGO (まぶたの中に…)」。これらを聴いて音の世界に引き込まれる感覚を味わった。
そしてなんと言っても渾身のスロー・バラード「夜想」の後半部分で久保田利伸のラップを聴くことができる。アルバムがリリースされた1990年の時点ですでにメジャーシーンで日本語ラップを披露していたのだ。こんなアーティストはほとんどいなかったはず。
アルバム『BONGA WANGA』は、私の中でブラック・ミュージックの入口として機能していた。その後、ヒップホップを聴くようになるのも、ここにルーツがあったのだと後で気付いた。
今聴いてもパワフルでセクシーなボーカルは色褪せていない。ブラックミュージックの魅力が思いっきり詰まったアルバム『BONGA WANGA』は今後も聴き続けるだろう。
曲目リスト
- Feel so real
- 大ボラ of LIFE
- Tell me why (この恋の行方)
- MAMA UDONGO (まぶたの中に…)
- Be wanabee
- BONGA WANGA
- SHOOT THE HOOP!
- Love under the moon
- Something’s comin’ on
- MIXED NUTS
- 夜想
- No more rain
- 君に会いたい
- BONGA WANGA (Reprise)