園子温（ソノシオン）監督の最新作となる映画「TOKYO TRIBE」が公開（2014年8月30日）したので、さっそく観てきた。
原作は井上三太（イノウエサンタ）の漫画「TOKYO TRIBE 2」。若者向けのストリート系ファッションなどの情報誌「boon」（2008年に休刊）に連載されていた。そして原作者の井上三太（イノウエサンタ）もレンコン・シェフ役で出演している。
映画は原作とかなりストーリーが異なっている。さすがにあのボリュームの話（コミック全12巻ぶん）を忠実に再現したら2時間で足りるはずがないのだろう。
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TOKYO TRIBE2 第１巻 (2014/06/27) 井上 三太 |
井上三太作品との出会い
井上三太のマンガに出会ったのは10代の頃だった。場所は、近所にあった本屋とレンタル・ショップが合体した黄色と青がトレードマークの全国チェーン。ここで「QuickJapan」というサブカル雑誌を立ち読みしていたときに、たまたま目に入ったのが「Born 2 Die」という漫画だった。
そのときに読んだ回の内容は、ハシーム（Tokyo Tribe 2に登場している）らしきキャラが、もうひとりのゴリラみないなやつとゲーセンでギャルをナンパして、カー・セックスするみたいな話だった気がする。
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Born 2 die (Feelコミックス) (2001/02) 井上 三太 |
園子温（ソノシオン）監督の解釈
ちょっとした勘違いから生じた、海（カイ）とメラの確執。それが原作の骨子である。しかし映画版では、その確執を生じさせたきっかけが、大きく異なっている。要は、メラが海を恨むきっかけが違うのだ。
原作にあった過激な表現も、映画ではかなりやわらいでいる。原作どおりの過激な表現をしてしまうと18禁になって、10代の動員が減ってしまうという政治的な事情でもあったのだろうか。
そのせいか、極悪非道な悪役のブッバやンコイに対しても残酷なイメージをあまり感じず、刺激の面では（原作に比べて）物足りなかったと言わざるをえない。
しかし、この映画版は「刺激」を描いたものではない。「世界で初めてラップ・ミュージカルを試みた」、というのを１番の売りにしている作品である。そう考えれば、必要以上の刺激は要らないし、それなりに「ぽさ」が出れば良かったのかもしれない。
ラップに関して
現役のラッパーと役者のスキル差が大きかった、というのが個人的な意見。とくに染谷将太（ソメヤ・ショウタ）演じるMC Show（ＭＣショウ）は、映画用に作られたオリジナル・キャラクターで、ストーリーテラー的な役割を持たせて物語をわかりやすくラップで説明する。その性質上、ラップのシーンが桁違いに多い。本職のラッパーではないため、どうしても付け焼き刃のスキルが気になってしまう。それがすこし残念だった。
逆に、漢（カン）や、練マザファッカーのD.O（ディー・オー）など、本職のラッパーたちは、しっかりと自分のラップを披露していた。劇中のラップを見るかぎり、映画用に、かなりシンプルでわかりやすいリリックを要求されたと思われる。だから本人たちにとっては不完全燃焼だったのかも。と、映画を観ながらそんな想像をしていた。
いずれにせよ、スキル差に関してはライミングとかフロウとかを意識して聴いている人に限定される。ラップに馴染みのない一般の人からしたら大した問題ではないだろう。いわゆるリスナーの「解像度」の問題である。
まとめ（感想）
正直、ストーリーとかそんな細かいことはどうでもいい。世界初の「ラップ・ミュージカル」である。ラップで物語が進行する映画が2014年に公開している。それだけで、ヒップホップがまだ現役のカルチャーであることを示していると言えよう。
そしてあの次々と畳みかけられるラップは、劇場の爆音でこそ活きるはずなので、関心があるなら公開中に劇場へ足を運ぶことをオススメする。ショボい音では魅力が半減してしまうかもしれない。劇場で3Dの「ゼロ・グラビティ」を観た人なら、劇場でしか味わえない体験があるとわかるはずだ。
それと、個人的な好みになるが、「あやしいネオンに照らされたダーティーな夜の街」（例えるなら、映画「ブレードランナー」の感じ。もしくは「九龍風水傳（クーロンズゲート）」という昔PSにあったアドベンチャー・ゲーム。もっと言えば、馳星周（ハセセイシュウ）の小説「不夜城 (Sleepless Town)」、アニメ「攻殻機動隊」などといった、現実には存在しない怪しい世界の空気感）が好きなので、TOKYO TRIBEの世界はかなり楽しめた。
●予告編
[youtube]https://www.youtube.com/watch?v=7vDSPqAA59k[/youtube]