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書評

ヒップホップはアメリカを変えたか?

ヒップホップはこれまで世の中にどのような影響を与えてきたのか。そして今後ヒップホップはどのように社会を変えていけるのか。

書籍『ヒップホップはアメリカを変えたか? もうひとつのカルチュラル・スタディーズ』には、ヒップホップと社会の関係、そしてヒップホップの政治利用の可能性が記されている。

ヒップホップで慈善活動

ヒップホップというコミュニティに人が集まれば、それだけで政治的な意味を持つ。民主国家である以上、決めごとには「多数決」が採用されるからだ。ヒップホップに人が集まれば、これがそのまま票田となり、多数決が有利になるのである。

ほとんどのリスナーやアーティストたちは、ヒップホップを政治の道具に使う気などない。彼らは、単純にヒップホップという文化を楽しんでいるプレイヤーなのだ。ところが、そこに人やマネーが集中している以上、これを利用しようとする人間は必ず現れる。

たとえば、不幸な人たちを救うためのチャリティー・イベントもまた政治利用の一種である。客を呼べるアーティストたちが集結すれば、まとまったマネーが集まる。そのマネーを社会貢献に役立てれば主催者のイメージ・アップとなる。選挙にも勝てるというわけだ。

チャリティー・ライブに限って言えば、不幸な人が経済的な援助を得て救われ、主催者はイメージ・アップ。アーティストはプロモーションできて、客はライブを楽しめる。このWin-Win-Win-Winの関係に悪いところは見当たらない。

このような取り組みは、ヒップホップを社会貢献に役立てている好例だろう。しかしその慈善活動とは裏腹に、ヒップホップが社会問題の温床として捉えられる側面もある。

商業ヒップホップが生む問題

商売の基本が、広告による販売促進であるなら、テレビでバンバンPVを流し、ラジオでもガンガン曲を流し、雑誌にもデカデカと紙面を割くのが手っ取り早い。

ただ、これをやるにはとてつもないマネー(広告料)が必要になる。だが大手レーベルはそれをやる。なぜなら、やればやるほど儲かるからだ。

また、ミュージック・ヴィデオの中にだけ存在する「デタラメな世界」をリスナーの頭に刷り込むのも常套手段である。

ハッパ(ドラッグ)を吸いながら女を取っ替え引っ替え(男性優位・女性蔑視)して、ムカつく奴には銃(暴力)をぶっ放す。そしてこれをカッコイイことであるかのように見せるのである。

とくにハイプ・ウィリアムズが手がけるミュージック・ヴィデオの登場以降、ラッパーの魅力以上に強力なエフェクトをかける過激なものが増えたという。Nelly(ネリー)の「Tip Drill」は、女性を消費財として描かれているような描写に賛否を生んだ。

暴力や麻薬がはびこるゲットーでの過酷な生活を描写したギャングスタ・ラップや、「Tip Drill」のような女性蔑視を連想させる曲が流行れば、若いリスナーたちは影響を受けてしまうというのも頷ける。

まとめ

ヤンキー漫画が流行ればヤンキーが発生し、リアクション芸人が流行れば、(素人の模倣ゆえに)イジメと紙一重の笑いが模される。ヒップホップに限らず売れるものは社会現象になる。

ギャングスタ・ラップは、マフィア映画さながらの刺激的な物語を疑似体験できる。だから人気が出て、多感な少年たちは影響を受け、マネしてしまう。

たとえ少年犯罪の増加を招く「反社会的」なものであっても、大金が目の前に転がっていれば拾う人はいる。それが人間の心理であり、あとは当人たちのモラルの問題なのだ。

週刊誌のどうでもいいゴシップや、テレビのゲスなバラエティ番組のほうが好まれれば、製作者はそれをつくるだけである。資本主義社会はいつだって需要と供給の関係で成立している。

社会問題をあつかったパブリック・エネミーも、はじめは話題になったが、数年で飽きられてしまい、インディーズでの活動を余儀なくされた。社会にとって意義のある活動が、かならずしも経済的成功に直接むすびつくとは限らない。

ヒップホップに商用利用の可能性を見出してからのヒップホップ市場は、急速に加熱していった。そして誰もが無視できないほどの経済規模にまで成長すると、この影響力を利用してヒップホップを政治利用することまで考えはじめた。

書籍『ヒップホップはアメリカを変えたか? もうひとつのカルチュラル・スタディーズ』には、ヒップホップが進化していくきっかけとなったエピソードがいくつも紹介されている。

ヒップホップがどのように社会と関わってきたのか。その歴史を学ぶのに最適な1冊であるのは間違いない。

目次

序文:ヒップホップはアメリカを変えたか? (Hip Hop Matters)

  • プロローグ:なぜヒップホップは重要なのか? (Hip Hop Matters)
  • イントロダクション:ヒップホップが踏み出した第一歩 (Back in the Day)

第1部:ポップカルチャーにおけるヒップホップの闘い (Pop Culture and the Struggle for Hip Hop)

  • 第1章:90年代 ポップスを丸ごと飲み込むヒップホップ (Remixing American Pop)
  • 第2章:1988年はヒップホップ飛躍の年 (A Great Year in Hip Hop)
  • 第3章:白人がヒップホップを支配する (Fear of a White Planet)
  • 第4章:インターネット時代のヒップホップ (The Digital Underground)

第2部:政治運動におけるヒップホップの闘い (Politics and the Struggle for Hip Hop)

  • 第5章:大衆を動かせ (Move the Crowcd)
  • 第6章:若者は声を上げる (Young Voices in the Hood)
  • 第7章:「私たちの未来は、いま、ここにある」 (“Our Future…Right Here, Right Now!”)
  • 第8章:「ヒップホップは私たちを愛しているの?」 (“We Love Hip Hop, But Does Hip Hop Love Us?”)
  • 第9章:アカデミズムの中のヒップホップ (Artifical Intelligence?)
  • エピローグ:ヒップホップを超えろ! (Bigger Than Hip Hop)
  • アルバム・曲名索引/用語索引