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書評

漢 a.k.a. GAMIの自伝「ヒップホップ・ドリーム」で学ぶリアル

hiphop-dream

漢(カン)は、新宿を根城とするハードコア・ヒップホップ・グループ、MSC(エム・エス・シー)のメンバー。Big Pun(ビッグ・パン)のように長いフレーズを一息で放つラップ・スタイルが特徴的。フリースタイルに定評があり、2002年のB-Boy ParkのMCバトルで優勝。フリースタイルでも録音作品のようなクオリティでライミングできるという実力派だ。

彼のリリックには妙なリアリティがあって、そこには裏社会に身を置いたことがなければ書けないような内容もよく出てくる。彼のヒップホップ哲学において、「リアルであること」は最優先事項なのだ。だから裏社会のリリックを吐き出すためには、実際に「ストリート・ビジネス」によって金を稼ぎ、その体験がラップに反映されていなければならない。

自分なりのリアルを遵守する

ラップをはじめた高校生の時には、すでに「自分なりのラップのルール」を確立していたという。できるだけ会話に近い言葉でラップすることと、自分の身の回りのことや生活についてラップすること。

ウソの内容をラップするのは「リアル」ではない。体験してないのに虚勢を張ってラップするのはニセモノのがすること。そんな考えを持っている彼が、リアルであり続けるには、実体験のみをラップすることである。

そうやって自分を律する一方で、非合法な「ストリート・ビジネス」に手を染めるのは、社会のルールよりも自分の信念に従って生きている証拠である。

自分の信念に従って行動するリアル

漢(カン)が立っている場所を理解するには、社会のルールで善悪を決める二元論で考えていても答えは出ない。彼は自分で定めた価値基準によって正義と悪を定義しているからだ。だからこそ所属していたLibra Records(ライブラ・レコード)の社長と揉めたり、偶像的キャラクターを演じる芸風のDabo(ダボ)に噛みつく必然性が生じるのである。

人ごみの中、自分の信念に従ってまっすぐ歩いていれば、いつか誰かとぶつかってしまう。そこで避ければトラブルは回避できるだろう。それでもぶつかることを選択するところに彼の美学を感じる。

信念を譲れない人間が、誰かの下で働くことはむずかしい。Libra(ライブラ)を去って、鎖グループ(クサリ・グループ)という自分の団体を立ち上げたのもまた必然なのだろう。

まとめ

どんなに怖そうな人にも少年時代があり、そのときの周囲の環境や生きてきた時代などが影響して、現在の人間性ができあがっている。

「ヒップホップ・ドリーム」を読んで、彼の生い立ちからラッパーになるまでのおおよその流れを知ることができた。そこに書かれている文章には、はじめてMSC(エム・エス・シー)を聴いたときの乾いた印象(個人的な感想)ではなく、人間的な魅力がつまっている。

そこで改めて彼の作品を聞き返してみる。かなり印象が変わっていることに気づいた。本で語られている当時の舞台裏と照らし合わせるように聴いてみると、やはり「会話に近い言葉」で「身の回りのことや生活」についてラップしている。あのリリックが日常というのもすごいが、虚勢を張らず堂々と等身大で表現しているところはさすがである。

漢(カン)は始めから「自分でやらなければ意味がない」ことを知っていた。だからこそ、自分がやりたいこと、やるべきことを見定めて、実際にそれを体験しながらリリックを紡ぎ出してきた。いろいろなトラブルや出会いの中、他人に介入されない自分だけの意思でものごとを決定していく。その姿に漢(カン)のリアルを見た。

現在、漢 a.k.a. GAMI(カン・エーケーエー・ガミ)は、鎖グループ(クサリ・グループ)の代表として活動している。本書を読んで鎖グループ発足までの経緯を知った今、これからの動向に目が離せなくなりそうだ。

参考作品

『ヒップホップ・ドリーム』目次

  • INTRO
  • 第1章 新宿ストリート育ち
  • 第2章 ピリつくキャンパスライフ
  • 第3章 MC漢の誕生
  • 第4章 二十歳で迎えた人生の分岐点
  • 第5章 どん底から這い上がれ
  • 第6章 日本語ラップの新地平
  • 第7章 マイクロフォン・コントロール
  • 第8章 アンダーグラウンド・コネクション
  • 第9章 これはビーフだ、ガッツリ食うぜ
  • 第10章 黒い噂が渦巻く <氷河期>
  • 終章 ヒップホップ・ドリーム

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