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『ライムスター宇多丸の「ラップ史」入門』読後雑感

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ラップの歴史を語るという主旨で放送されたラジオ特番の書籍化。約10時間ぶっ続けで放送したということもあり、ボリューム盛りだくさん。ヒップホップの誕生(1973年8月11日)から2018年現在まで、進化の過程が俯瞰できる内容となっている。

パーソナリティはライムスターの宇多丸。彼は日本のヒップホップ文化を定着すべく、かなり初期から啓蒙活動をしてきた当事者だ。

ヒップホップはもうすぐ40周年を迎えようとしている。歴史を網羅するのに、たった10時間の放送ではとても足りないだろう。紹介するアーティストや作品をかなり極限まで厳選したと思われる。

ずっとシーンの当事者として活躍し、現在でもバリバリ第一線で活躍しているライムスター宇多丸。彼が黎明期から見てきたシーンこそ、ジャパニーズ・ヒップホップの王道を行くオーセンティックな「ラップ史」と定義してもいいのではないかと個人的には思っている。

誰かが何かを語るとき、その語り部のフィルターがかかる。

たとえば、Tha Blue Herb(ザ・ブルー・ハーブ)のBoss The MC(ボス・ザ・MC)の視点で歴史が語られるのであれば、北海道からの目線で語られるだろうし、Sing02(シンゴ・ツー)が語れば、また違ったものになるはずだ。

雑感

まだヒップホップがマジョリティ化していなかった1990年代、ヒップホップ情報を掲載するメディアがごく限られていた時期がある。国内唯一と言っていいヒップホップ専門誌『FRONT』や、その後継の『blast』、その他ディスク・レビュー等に宇多丸氏は関わっていた。

日本における「ヒップホップとは何ぞや?」という問いを補完するために、ひとつずつ地道に定義し、ヘッズたちの住む世界を構築する立場、すなわち「日本のヒップホップ」という世界のアドミン権限を持っているのである。

日本における「標準的なヒップホップの歴史」として必要最低限の知識を学ぶのであれば、この1冊で十分だろう。まさに入門編としては最適のテキストである。

参考書籍