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映画『アート・オブ・ラップ』を観て思うこと

Art Of Rap
Art Of Rap

渋谷にある映画館「シネマライズ」で限定公開していた、『アート・オブ・ラップ』という映画を観た。

アメリカ西海岸ヒップホップのパイオニア、Ice-T(アイス・ティー)による初監督作品。

ドキュメンタリー・タッチで進んでいくこの映画の内容は、Ice-T(アイス・ティー)が、多くのラッパーに対して、「ラップとは何ぞや?」というテーマで訊いて回るというもの。

多くのアーティストの話を聴いていると、それぞれにラップに対する考え方があり、自分のポリシーにしたがってリリック(歌詞)を書き上げているというのがわかる。

Rakim(ラキム)や、Eminem(エミネム)といった、ライミング(踏韻)に重きを置くラッパーの作詞方法は、個人的に気になるところだった。

いったい、どうやったら、あんなに凄まじいライミングができるのだろうと不思議に思っていたのだが、予想どおり、彼らは、言葉を「パズル」のようにとらえているようだった。

カッチリとライムをハメていくタイプのMCになるためには、パズルを根気強く解ける資質が求められる。

途中で「もういいや」と諦めてしまうタイプの人が、こういったタイプのMCになるのは、かなりキツイだろう。

みんなリリック(歌詞)を書くのが好き

ライミング(踏韻)に重きを置くラッパーではなくても、生活の中に、「作詞の時間」を確保しているところは、どのラッパーも同じである。

この映画を通してわかったのは、派手な生活を求めて、大金を手に入れるためにラップをやっているMCが成功することはない、ということ。

たとえ成功しても、長続きすることはない。大事なのは、金や名声ではないのだ。それをするのが好きかどうか、である。

どのラッパーも自分が最高だと思っている理由

フリースタイル(即興ラップ)を披露するラッパーたちは、実に楽しそうにラップしている。

そして、どのラッパーも、口をそろえて、「とにかく自分が最高」「お前みたいなワック(偽者)は、どっか行け」「行かないなら、ぶっ殺す」という。

どうしても、このような内容になってしまう理由のひとつに、KRS-One(ケー・アール・エス・ワン)は、「ダズン」という言葉を挙げて説明している。

「ダズン」というのは、「ダース」という意味で、「12」を表す。

かつて、黒人が12人ごとに人身売買によって売られていったことから、これを「ダズン」と言うようになったらしい。

黒人奴隷が12人で行動していると、それぞれが、お互いを誹謗中傷しはじめた。

それが、ラップのはじまりであり、サイファー(円になって、それぞれがフリースタイルを披露する)のはじまりとなった、という説である。

地道な行動が身を結ぶ

自分がいかにスゴイMCであるか。それを証明するのは、作品であれ、ライブであれ、様々な表現方法があるだろう。

ところが、リスナー(聴き手)の評価が死活問題であり、実力が無ければ、すぐに淘汰されてしまう。

映画に出演しているラッパーたちは、それをよく知っていた。

派手な衣装で、大口を叩く。

ラッパーとは、そんな印象があるかもしれない。が、目の前の快楽に負けず、歌詞を考えて、すこしずつノートに書きとめるしか、前線で戦い続けることはできない。

そんな、地味で途方もない作業の積み重ねが、まるで宝石を散りばめたような名作につながる。

楽して成功することはない <広告を見極める>

ゴージャスな暮らしをクローズアップして、「君もこんな暮らしをしてみないか?」という画の撮りかたは、どこにでも蔓延している。

輝いているところだけを見せて、「自分もこうなりたい」と思わせることができれば、うまく「入口」ができているということだ。

そして、「入口」に入ったほとんどのプレイヤーは、道半ばで挫折していく。これが「出口」である。

入ってから、出るまでに使った金銭的/時間的コストは、入口を用意した者たちの収益となる。

好きこそ物の上手なれ

すべてのことに言えるのは、「派手に生きる」という実体のないものに翻弄されて、ほんとうに必要なことを忘れてはいけないということだ。

地味すぎて途方もないことを粛々と続けることの重要性。これを知らないと、ビジネスの餌食にされてしまう。

野球なら素振り、将棋なら棋譜並べというように、その道のプロであっても、いや、プロだからこそ、基礎を疎かにすれば致命的となる。

同条件でサバイバルをしている他プレイヤーたちがいるにもかかわらず、「練習を欠かす」という行為は、死に直結するほどリスクが大きい。

長年ラッパーとして活動し続けているMCたちは、ラップが好きで、ちゃんと続けているところが共通している。

好きでなければ、継続はむずかしい。どのようにして生きていくかを考えるとき、それを「好き」であるかは、最初の必須条件として用意するべきだろう。

関連リンク

映画『アート・オブ・ラップ』公式サイト