アメリカから渡ってきたヒップホップが、日本でどのように料理され、日本用にカスタマイズされていったのか。歴史をたどって見ていこう。
今回は、日本語ラップをアルバムにしたものでは初という、いとうせいこう氏のアルバム「業界くん物語」がリリースされた、1985年から2009年まで、25年の歴史を追ってみた。
年代別リンク
1985年 | 1990年 | 1995年 | 2000年 | 2005年 |
1986年 | 1991年 | 1996年 | 2001年 | 2006年 |
1987年 | 1992年 | 1997年 | 2002年 | 2007年 |
1988年 | 1993年 | 1998年 | 2003年 | 2008年 |
1989年 | 1994年 | 1999年 | 2004年 | 2009年 |
1985年
1986年
- 近田春夫こと、President BPM(プレジデントBPM)がシングル「Masscomunication Breakdwon」をリリース。(内容は「マスメディア批判」)。
1987年
- ECDがベスタクス主催のDJ大会で優勝。
- 藤原ヒロシと高木完で、Tinnie Punks(タイニー・パンクス)を結成。
1988年
- レーベル「Major Force(メジャー・フォース)」設立(設立メンバー:藤原ヒロシ、高木完、屋敷豪太、工藤昌之など)。
- メジャー・フォース主催のイベント「DJ Underground Contest」開催。(優勝:Krush Posse(クラッシュ・ポッセ)、特別賞:スチャダラパーなど)。
1989年
- いとうせいこうがヤン富田と組んで、アルバム「Mess/Age」を発表。
- ECD主催のコンテスト「Check Your Mike」開始。(第1回の優勝はZingi(ジンギ)。その後、キミドリやBoy-Ken(ボーイ・ケン)などを輩出)。
- Rhymester(ライムスター)結成。
- Mess/Age (1989)
いとうせいこう(イトウセイコウ)
いとうせいこうのサード・アルバム。ヤン富田との共同制作。
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1990年
- Zingi(ジンギ)主催のイベント「Young MC’s In Town」開始。
- スチャダラパーを中心としたクルー「Little Bird Nation」(別名:LB)結成。
1991年
- スチャダラパーがセカンド・アルバム「タワーリングナンセンス」でメジャーデビュー。
- 高木完が「Fruit Of The Rhythm」でメジャーデビュー。
- タワーリングナンセンス (1991)
スチャダラパー(スチャダラパー)
スチャダラパーのフルアルバム2作目。当時ここまでカジュアルな作品もめずらしかった。
…詳細を見る - Fruit Of The Rhythm (1991)
高木完(タカギ・カン)
高木完(タカギ・カン)の初作品。
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1992年
- ECDがファースト・アルバム「ECD」をリリース。
- Microphone Pager(マイクロフォン・ペイジャー)結成。
- ECD (1992)
ECD(イー・シー・ディー)
ECD(イー・シー・ディー)のデビュー・アルバム。
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1993年
- m.c.A.T.がシングル「Bomb A Head!」をリリース。
- Rhymester(ライムスター)がファースト・アルバム「俺に言わせりゃ」をリリース
⇒同時にFunky Grammar(ファンキー・グラマー・ユニット)を結成。 - King Giddra(キングギドラ)結成。
- ラッパ我リヤ結成。
- 俺に言わせりゃ (1993)
Rhymester(ライムスター)
Rhymester(ライムスター)のファースト・アルバム。代表曲は「あわよくばパワー」「なんもやる気しねぇ」「Funky Grammer」など。
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1994年
- East End×Yuri(イースト・エンド・プラス・ユリ)がシングル「Da. Yo. Ne」をリリース。
- スチャダラパーと小沢健二で、シングル「今夜はブギーバック」をリリース。
- ヒップホップ専門の雑誌「FRONT」が10月に創刊。
- Denim-ed Soul (1994)
East End×Yuri(イースト・エンド・プラス・ユリ)
East End×Yuri(イースト・エンド・プラス・ユリ)のファースト・アルバム。代表曲は「Da.Yo.Ne」「Maicca -まいっか-」「いい感じ やな感じ」など。
…詳細を見る - スチャダラ外伝 (1994)
スチャダラパー(スチャダラパー)
SDP(スチャダラパー)の4作目。収録数からミニアルバムともいえる。小沢健二との「今夜はブギーバック」や、ポンキッキーズの主題歌「Get Up And Dance」などが収録されている。
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1995年
- Rhymester(ライムスター)のセカンド・アルバム「エゴトピア」をリリース。(日本語ラップ創世記からみた、ひとつの到達点)
- Buddha Brand(ブッダ・ブランド)がアメリカから帰国。
- Microphone Pager(マイクロフォン・ペイジャー)がファースト・アルバム「Don’t Turn Off Your Light」をリリース。
- King Giddra(キングギドラ)がファースト・アルバム「空からの力」をリリース。
- Lamp Eye(ランプ・アイ)がデビューEP「下克上」をリリース。
- You The Rock(ユウ・ザ・ロック)がラジオ番組「Hip Hop Night Flight」(1995.12.~1998.5.)を開始。
- エゴトピア (1995)
Rhymester(ライムスター)
Rhymester(ライムスター)の2作目。これまでのジャパニーズ・ヒップホップ作品の最高峰に位置する作品のひとつ。
…詳細を見る - Don’t Turn Off Your Light (1995)
Microphone Pager(マイクロフォン・ペイジャー)
Microphone Pager(マイクロフォン・ペイジャー)の初フル・アルバム。最盛期を経て収斂に向かうグループではあったが完成度は高い。
…詳細を見る - 空からの力 (1995)
King Giddra(キングギドラ)
King Giddra(キングギドラ)のデビュー作。これまでにない2MCによるタイトなライミングは新時代の到来を予感させた。
…詳細を見る - 下克上 (1995)
Lamp Eye(ランプ・アイ)
Lamp Eye(ランプ・アイ)のデビュー作品。代表曲は「下克上」「暗夜航路」など。
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1996年
- ECDが大規模なイベント「さんピンCamp」(@日比谷野外音楽堂)を開催。
- You The Rock(ユウ・ザ・ロック)がファースト・アルバム「The Soundtack ’96」をリリース。
- Buddha Brand(ブッダ・ブランド)がファーストEP「人間発電所」をリリース。
- King Giddra(キングギドラ)が活動停止。
- The Soundtack ’96 (1996)
You The Rock(ユウ・ザ・ロック)
You The Rock(ユウ・ザ・ロック)のソロ初アルバム。代表曲は「Boom Bye Bye (Hip Hop Never Die 2)」「Free」「Fukurou (Yakanhikou)」など。
…詳細を見る - 人間発電所 (1996)
Buddha Brand(ブッダ・ブランド)
Buddha Brand(ブッダ・ブランド)のデビュー作品。代表曲は「人間発電所」「大怪我」「Ill 伝承者 (Demo Virsion / April Fool Mix)」など。
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1997年
- Da Pump(ダ・パンプ)がデビュー。
- Rico(リコ)がラジオ番組「Hip Hop Journey -Da Cypher-」(1997.4.5.~2002.3.30.)を開始。
- Dev Large(デヴ・ラージ)がEl Dorado Records(エルドラド・レコード)設立。
1998年
- Shing02(シンゴ・ツー)がファースト・アルバム「緑黄色人種」をリリース。
- Tha Blue Herb(ザ・ブルー・ハーブ)がファースト・アルバム「Stilling Still Dreaming」をリリース。
- 緑黄色人種 (1998)
Shing02(シンゴ・ツー)
Shing02(シンゴ・ツー)の2枚組みファースト・アルバム。代表曲は「真吾保管計画 (Newsflash)」「少年ナイフ (Shonen Knife)」など。
…詳細を見る - Stilling Still Dreaming (1998)
Tha Blue Herb(ザ・ブルー・ハーブ)
Tha Blue Herb(ザ・ブルー・ハーブ)のファースト・アルバム。力強いポエトリー・リーディングが印象的。
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1999年
- Dragon Ash(ドラゴン・アッシュ)がアルバム「Viva La Revolution」をリリース
。 - Zeebra(ジブラ)がラジオ番組「Beats To The Rhyme」を開始。
- 雑誌「FRONT」が「blast」に改名。
- Viva La Revolution (1999)
Dragon Ash(ドラゴン・アッシュ)
Dragon Ash(ドラゴン・アッシュ)のサード・フルアルバム。生音を使用したバンド形式のためミクスチャー色が強い。しかし日本のヒップホップを認知させた功績は大きい。
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2000年
- Nitro Microphone Underground(ニトロ・マイクロフォン・アンダーグラウンド)がファースト・アルバム「Nitro Microphone Underground」をリリース。
- DS455(DSフォー・ダブル・ファイブ)がファースト・アルバム「Bayside Rydaz」をリリース。
- Nitro Microphone Underground (2000)
Nitro Microphone Underground(ニトロ・マイクロフォン・アンダーグラウンド)
N.M.U.(ニトロ・マイクロフォン・アンダーグラウンド)のファースト・アルバム。日本版Wu-tang(ウータン)を彷彿とさせる巧みなマイクリレーが持ち味のグループ。
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2001年
- Rip Slyme(リップ・スライム)がメジャーデビュー。
- Kick The Can Crew(キック・ザ・カン・クルー)がメジャーデビュー。
- Ozrosaurus(オジロザウルス)がファースト・アルバム「Rollin’ 045」をリリース。
- Rollin’ 045 (2001)
Ozrosaurus(オジロザウルス)
Ozrosaurus(オジロザウルス)のファースト・フルアルバム。代表曲は「Area Area」「Rollin’ 045」など。
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2002年
- King Giddra(キングギドラ)がセカンド・アルバム「最終兵器」をリリース
⇒収録曲の「公開処刑」では、Dragon Ash(ドラゴン・アッシュ)のボーカルKJを直接的にディス。 - Think Tank(シンク・タンク)がファースト・アルバム「Black Smoker」をリリース。
- DJ Kentaro(DJケンタロウ)がアジア人初のDMC世界チャンピオンに輝く。
- 最終兵器 (2002)
King Giddra(キングギドラ)
King Giddra(キングギドラ)が再結成後にリリースした2作目のアルバム。代表曲は「Unstoppable」「F.F.B.」など。
…詳細を見る - Black Smoker (2002)
Think Tank(シンク・タンク)
Think Tank(シンク・タンク)のファースト・フルアルバム。代表曲は「Black Smoker」「Hush-Hush」など。
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2003年
- MSCがファーストアルバム「Matador」をリリース。
- K Dub Shine(Kダブ・シャイン)がレーベル「Atmic Bomb Production」を設立。
- 降神(オリガミ)が自主制作アルバム「降神」をリリース。
- Matador(マタドール) (2003)
MSC(エム・エス・シー)
MSC(エム・エス・シー)のファースト・フルアルバム。新宿のストリートを無機質に描写したような作品。
…詳細を見る - 降神 (2003)
降神(オリガミ)
降神(オリガミ)のファースト・フルアルバム。2人の天才によるポエトリー・リーディングは、コアな層から支持をあつめた。
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2004年
- KAMINARI-KAZOKU(カミナリ・カゾク)がファースト・アルバム「330 – More Answer No Question」をリリース。
- K Dub Shine(Kダブ・シャイン)がサード・アルバム「理由」をリリース。(Dev Large(デヴ・ラージ)とのビーフに発展)
- Kick The Can Crew(キック・ザ・カン・クルー)が活動休止。
- 妄走族(モウソウゾク)が活動休止。
- Tokona-X(トコナX)が死去(享年26歳)。
- 330 – More Answer No Question (2004)
KAMINARI-KAZOKU(カミナリ・カゾク)
KAMINARI-KAZOKU(カミナリ・カゾク)のファースト・フルアルバム。Dev Large(デヴ・ラージ)プロデュースの「Brotha Soul」が秀逸。
…詳細を見る - 理由 (2004)
K Dub Shine(ケー・ダブ・シャイン)
K Dub Shine(ケー・ダブ・シャイン)のソロ3作目。自身の過去を赤裸々につづった曲がいくつか存在する。
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2005年
2006年
- Kreva(クレバ)がセカンド・アルバム「愛・自分博」をリリース。(オリコン週間チャート1位)
- Soul’d Out(ソールド・アウト)がシングル・ベスト「Single Collection」をリリース。(オリコン週間+デイリーチャート2位)
- D.L(=Dev Large)がアルバム「The Album (Admontions)」をリリース。
- Seeda(シーダ)らがミックスCD「Concrete Green」をシリーズ化。
- Dabo(ダボ)が「Tokyo Shit」という企画をプロデュース。元ネタは、Busta Rhymes(バスタ・ライムス)の「New York Shit」)
- 愛・自分博 (2006)
Kreva(クレバ)
Kreva(クレバ)のソロ2作目。代表曲は「イッサイガッサイ」「スタート」「国民的行事」など。
…詳細を見る - The Album (Admontions) (2006)
D.L(ディー・エル)
D.L(ディー・エル)のソロ初となるフルアルバム。何年も寝かせていた珠玉のサウンドは他と一線を画す。
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2007年
- Rhymester(ライムスター)がベストアルバム「メイドインジャパン~The Best Of Rhymester~」をリリース。(オリコン週間チャート6位)
- Seeda(シーダ)が5作目となるアルバム「街風」でメジャーデビュー。
- Tha Blue Herb(ザ・ブルー・ハーブ)がサード・アルバム「Life Story」をリリース。
- 練マザファッカーがテレビ番組「リンカーン」に出演。
- 雑誌「blast」が廃刊。
- メイドインジャパン ~The Best Of Rhymester~ (2007)
Rhymester(ライムスター)
Rhymester(ライムスター)の2枚組みベストアルバム。これを手に入れれば、ライムスターの主要曲を網羅できる。
…詳細を見る - 街風 (2007)
Seeda(シーダ)
Seeda(シーダ)のメジャー初となる5作目のアルバム。過去のコアな作品が支持されていたこともあり、評価ははっきりと分かれた。
…詳細を見る - Life Story (2007)
Tha Blue Herb(ザ・ブルー・ハーブ)
Tha Blue Herb(ザ・ブルー・ハーブ)のフルアルバム3作目。独自の進化を遂げ、ひとつの真理にたどりついた作品。
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2008年
- Zeebra(ジブラ)が音楽活動20周年を記念し、ベストアルバム「The Anthology」をリリース。
- The Anthology (2008)
Zeebra(ジブラ)
Zeebra(ジブラ)のベストアルバム。3枚組みのボリュームで、彼のキャリアを俯瞰することができる。
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2009年
- Da. Me. Records所属アーティストがメジャーデビュー(Coma-Chi(コマチ)、Taro Soul(タロ・ソウル)、Ken The 390(ケン・ザ・サンキューマル)など)
- Teriyaki Beef(テリヤキ・ビーフ)事件が勃発。(Seeda(シーダ)と、Geek(ギーク)のMCであるOki(オキ)がTeriyaki Boyz(テリヤキ・ボーイズ)をディス。Varbal(ヴァーバル)の番組で、Seeda(シーダ)と対談後和解)
- MSCのGunnies(ギネス)と、Seeda(シーダ)のビーフ。
- 練マザファッカーのメンバー数名が麻薬取締法違反で逮捕。
まとめ
日本にヒップホップを根付かせるための土壌がまだ無かったころにやっていた人たちは、どんな思いで日本語ラップの作品を生み出したのだろうか。
2010年に発売された「ラップのことば」という本には、いとうせいこう氏のインタビューが収録されていて、アルバム「業界くん物語」をつくっていたときのエピソードを語っている。(「ヒップホップ・ウイルス感染者たちの証言」参照)
過去のアーティストたちから学んで、そこから自分のオリジナルを見つけ出す。これを続けてきたことによってシーンが醸成され、日本のヒップホップは進化をつづけてきた。
現在でも、国内外のヒップホップに影響を受けて、自分もやりたいと思ってラップをする人がいるかぎり、このマラソンは続いていくことだろう。
ヒップホップの可能性は、まだまだ未知数なのだ。