Dev Large(デブ・ラージ)「The Album」全曲解説
満を持してリリースされた快作。長いディグの歴史の到達点。ジャパニーズHip Hopでここまで黒いサウンドを出せるのは純粋にすごい。
目次
- Take You Home (Back To The Hip Hop)
- Music (Version: S.W.A.T.)
- Back To Burn
- Walfare
- Keepin' It Up!!
- Kikite (Lefty) [Feat. K-Bomb]
- Milky Way
- 鋼鉄のBlack [Feat. ミドリのBruce Burner]
- Life Check
- 結利大 (Suberidai)
- For My Men
- Manifest (粉骨砕身)
- God Mouth (God Bird Pt.2)
- The Masters (Massive Reprogram Devmix) [Feat. Zeebra &Amp; Twigy]
- Balance
- Crates Juggler
- 盲目時代 (Blind Age 2006) [Feat. 響言奏]
- D.L'S Midnight Theme Pt.3
Take You Home (Back To The Hip Hop)
アルバムの入り口で、突破口というか。勢いのある感じで「デヴ・ラージが帰ってきたよ」というのと同時に、俺の持ってる理想のHip-Hopに今は行ってないんで、そういう所に戻したいなというという心の表れみたいな曲。
(戻したいと思っている理想のHip-Hopは)簡単に言うと'90年代初頭のシーンだったり、楽しさ、サンプリング・ルネッサンスな感じ、あの雰囲気だよね。
今はもう略奪されてさ、オリコンの左ページに入るものしかHip-Hopと認識してない子供が増えちゃってるからさ。でも、実は違うものがあるっていうのを見せたかったんだよ。
本当だったら音的にも難しいものだからインディーズでしか出せない内容かもしれなかったし、こういうのがメジャーで出せて良かったなと思って。メーカーの人は頑張ってくれたよ。
皆の力、皆が力。これは広げるためのきっかけでもあったんで縁の下の力持ちとか目に見えない精霊とか俺を導いてくれてる神様とか、すべての力が加わって出せたアルバムだと思う。
俺が俺個人のために私腹を肥やそうとか、地位や名声のために作ってたアルバムだとしたら出なかったと思う。俺はこのアルバムをやましい気持ちで作らなかったから。
Music (Version: S.W.A.T.)
(この曲は)前に違うネタで作ってたんだけど、それはどこからも出せなくて自主で限定でリリースしてたんだよ。
で、もう一回シングル出そうとなった時に山下さんのバックバンドの人たちとやったんだけど、あれからスパンも空いてるしあれはあれでカタログとして残るものにしたかったんでトラックを変えようとなって。
(このヴァージョンは)マイメン、Ken Sport(ケン・スポーツ)というのがNYに居るんだけど、元々ケンのアルバムに入るはずで作ってた曲で、(それとは)ループの箇所が1箇所違うところがあるんだけど、同じネタだし前の曲の流れを汲む曲だからケンに電話して「作るよ」、「いいよ」って。
それとはまったく同じ曲じゃないんだけど、ケンにはCo-Produceで入ってもらった。(今とはループがちょっと違うものは)'03年には出来てて、それをD.O.Iくんマジックでイイ感じにしてもらった。タイトルの通り、どういう気持ちでMUSICに携わってやってるかという曲。
俺のラッパーのしての面からすると、ラッパーとしての選手宣誓みたいな曲なんだよ。あとはNY時代何をやってたかとか。
Back To Burn
元々CQと1曲やりたかったというのもあったけど、このアルバムでラッパーとして2回フィーチャーしてんのはTwinkle(トウィンクル)だけなんだよ。
トウィンクルはすごい味のある江戸っ子ラッパーで、もっと世に出るべきラッパーだと思う。俺は力になりたかったんでトウィンクルを入れるために作った曲。
トウィンクルは "Still Burning"って感じだけど、CQと俺で久々にやるんで「Back To Burn」という曲になった。
サビの部分の「ジャンキーの為の耳の救世主」というのはデミさん(Nipps/Hibahihi)の考えた言葉。使ってみたいなと思って、そこをフックにしたんですよ。
Walfare
インタールードは作ってたんだけど、どこに何を入れるかはマスタリングの日まで決めてなかった。
何回か聴いてるうちにここかなって。最初からここに入れると決めてたわけじゃないんだけど、1、2、3曲がガンガンと来るからムードを変えて次の曲を聴かせたかったからここだった。
今回のインタールードは全部癒しの部分で、休みのスポット。
Keepin' It Up!!
これも(自分を)戒めるための曲。日々忘れちゃいけないことや、この4年ぐらいでふとした時にいつも考えてることをまとめたリリック。この曲も'03年くらいには作ってた曲で、凄く聴かせたい曲です。
この曲もそうだし他の曲もあるけど凄くヘビーリスニングなものが多くて、しかも覚醒というか第六感というか普通の感覚では感じ取れないものがいっぱい入ってるはず。
それは普通の人の感覚だと聴いてその言葉の響きや言葉の意味を追って良し悪しを判断すると思うんだけど、そこじゃなくて第三の耳で聴くと、例えば「このMCを捻り潰してやる」と言ってても、それには違う想念が込められてる曲が今までのブッダにもあって。
単純に酷い内容だなと思っても、また聴こうと思うような効果が入ってる曲があるんだけど。そういうものがこのアルバムには結構入ってるんですよ。
それを今までにも感じてた人もいるはずだけど、この6年でそういうものを汲み取れるニュータイプがもっと増えてるはずだからそこに対して作ってるアルバムでもあり、その気付いたニュータイプがレジスタンスを起こすきっかけになるという裏のメッセージが込められたアルバムでもある。
俺の役目は束ねるための引き金を引くこと、そのために作らされたんで。そのレジスタンスは反発じゃなく、いい方向に向かうためにバラバラになってる点がつながって線になること。
未来は予想がつかないとかどうなるか分からないと言うよね。それもあるんだけど、未来は自分たちで作り出すものでもあり、良い行いだったり良い想念を持ち良い気持ちで日々生きてると、良いものが周りに寄ってきて良い思考がどんどん広がって、良い方向に向かう道が出来るはずなんだ。
それを促すために作ってて、そっちの意味のレジスタンスを引き出すためなんだよ。
Kikite (Lefty) [Feat. K-Bomb]
単純にMCとしてケイ(K-Bomb)が好きで。ケイの異能力を引っ張り出すために作った曲だからね。普通にラップとしてカッコイイものを作ろうとして作った。
Milky Way
こういうエッセンスを入れた曲を作りたいと思ってて、そういうネタを探して作った曲。このタイトルは後で付けたんだけど。
(タイトルを)スペイシーな何かにしようかと思ったんだけど、やっぱ最初に考えてたものでしっくりきたなって。
鋼鉄のBlack [Feat. ミドリのBruce Burner]
これも結構前に出来てたんだよ、'02年くらいかな。デミさんにリリック入れてもらったのはもっと後だけど。"鋼鉄のBlack"という言葉は何の意味もなくデミさんが思い付きで、「"鋼鉄のBLACK"ってカッコイイよね」って(笑)。
デミさんとケイとリノ(Rino Latina Ⅱ)とツイギー(Twiggy)は宇宙人タイプなんだよ。あの辺の人たちから言われる言葉はすんなり受け入れようと思ってる。
俺とは違う視点で光る言葉を持ってるからね。だからそのままその単語を採用して、ドープな曲になってると思います。
俺とデミさんの2人でやる時は、ブラックブッダ(Black Buddha)っていうのでやろうと言ってて、だから曲の中にも"Black Buddha"って単語が出て来てるんだけど。
それで、リリックに「GhostとRaeばり共犯者~」って言ってんのはそういう感じで。ゴースト(Ghostface Killah)とレイ(Raekwon)がよく一緒に曲やってるでしょ?
ああいう感じのイメージで作ってるんだよ。まぁ、特に意味はないんだけど。
Life Check
どういう曲にするかを決める前にタダシ(Tad's AC)とやろうと決めてて、それはタダシの良さっていうのが必要だった。ヤツもまっすぐなんで、そういう部分を引き出そうと思ってこういうテーマになった。
ランチ(Lunch Time Speax)のピュアさ、一本気な感じとか、そういう所を出したいと思って作った曲です。
「辛いこともあるしいろんなことがあるけど、自分の人生だから自分がそこで降りちゃったらそこで終わっちゃう。自分の人生、ケツは誰も拭いてくれないから自分で頑張るしかないんだよね。
どんなに酷いことがあってもちょっと良いこともあったりするから、その繰り返しが人生だし、捨てたもんじゃないから。だから頑張っていこう、人生をもう一度見直そう」みたいな曲。
「投げやりになっちゃってる人もいるけど、そういうんじゃないよ」ということを考えてもらいたいと思う同時に、自分にも問いかけてる戒めの曲。強く今の時代を生きるために。
結利大 (Suberidai)
自主で「Music」を切った時にB面に入れてたんだけど、その時はまだ早いなって思ってたし、段階を踏まなきゃなと思ってたんでアナログだけだった。
アルバムの時期だったらいいなと思って今回入れた。相反する異なるものと戦ってたり揉めてるだけだと、どっちかが勝ち負けるという結果の上で、利をとれる時も負をとれる時もある。
何ていうのかな? お互いを認めあう。異なるものをひとつに結べば、利害関係でいう利は大きくなるはずだということで結利大というタイトルなんだよね。
レジスタンスを広げていこうみたいな、そのためにはまずは自分のことをやって、それが出来たらその話を人に伝えて同じような人を増やしていこうという曲です。この曲が一番このアルバムの中心でありキモの曲!!
For My Men
前にビクターでアルバム作るという話になった時に水沼くんというディレクターがいて、海で不運な事故で亡くなられてしまった人なんだけど。
その話があった時にこの曲は出来てて。「これはブルージーで凄く感じるよ、イイね、絶対入れようよ」って約束してた曲なんで。それで入れてる。
"For My Men"というのは、水沼くんのこと言ってる。これも次の曲に入る前に一回ちょっと休みたいというのもあった。
Manifest (粉骨砕身)
ネタがすごく気に入っていて、凄く作りたいと思ってて。ただ、凄く苦労した曲、それは音じゃなくてリリックのほうで4回くらい変えた。
ラッパーとしてどういう立ち位置にいて、何をやってきて何を見せてきたか、何を見せるか? そういう自分の看板になる曲を作りたいと思ってたので。
「生きてる時も人に恥ずかしくなくやってるし、死んで上のほうから見てる人、そういう人たちから見ても恥ずかしくない自分でいたい、そのために頑張ってるんだ、粉骨砕身なんだぜ」というのを伝えるために作った曲。
自分が死んで魂が残っても肉体が滅びた後、CDは残り続けるから響き続けるはずだということを歌いたいと思ったんだよ。
God Mouth (God Bird Pt.2)
本当は「God Bird」を作ったサウスポーチョップっていうイルなトラックメイカーがいるんだけど、その人にラップさせることを考えてたんだ。
デミさんが旅行から帰ってきた時に「えっ、あいつトラック作ってたのにラップしちゃったの」って驚かせようと思ってたから。
でもサウスポーチョップ、DJヒサ(DJ Hisa)っていうんだけど、結局(ラップを)やんなくて。これからラップする男に変えようと思ってるんだけど。
音が出来た時点で、妄走族のK5Rが(トラックを)聴いて「絶対やらしてくれ」って、その場でリリックを書いてくれて。
トウィンクルは入れること決めてて、スパーブ(Sperb)が入って、 D.O、剣 桃太郎の順で入ってくれることになって。その次に、MSCのプライマル(Primal)と知り合って、ゴッチ(Gocci)も「やりたい」っていうから入ってもらって、どんどん増えてっちゃって。
リノは最初の時期から言ってたんだけどなかなかやってくれなくてミックスし終わった後に「書けたから、今日録る」って入ってくれて。それでまとまった感じかな。
9MCの狂ったマイクリレーで本当はこれでPVを撮りたいんだけど長過ぎて流せないんだよ…。衝撃の残るマイクリレーになればいいなと思って作ってた。
The Masters (Massive Reprogram Devmix) [Feat. Zeebra &Amp; Twigy]
「Player's Delight」で組んだ3人なんだけど、ジブラ(Zeebra)がアルバム「The New Beginning」で何かやりたいって言って。
その時期にはもうアルバムを作ってたから、じゃあ1ヴァージョンは俺ヴァージョンで入れて、1ヴァージョンはツイギーのアルバムに入れて、1ヴァージョンはジブラ・ヴァージョンで三者三様でやろうって。
とりあえずジブラのやつはB.L(Bach Logic)の音でやりたいと思ってたんで、それが上手くやれて。それの出来がすごい良いんで、あれに対抗するのに何を作ろうかなと思って。
まずはドラムで壊していくようなものにしようと思った。これと「God Mouth (God Bird Pt.2)」は異質なものを感じる音になってると思うんだよ。
レアグルーヴ的じゃないものをやろうと思った2曲だから。あと、ジブラが番組で言ってるReprogramは、この時期に考えた言葉。
そのReprogramの一環として作る曲で、皆でムーブメントを作ろうと。「Player's Delight」でやった人たちが戻って、やってみてReprogramするっていう一環の曲です。
Balance
このタイトルはこの言葉を使いたかったのと、音から連想できたのでこのタイトルにして。次につなげる上で、何か挟みたかったからこの場所にインタールードを入れたんです。
Crates Juggler
これはエルドラドのサンプラーテープに入れてた俺のソロ曲で、ずっと寝かしたまんま出てなくて。
ことあるごとに「なんで出ないんだ、出してくれ」って言われてて、「いずれ出す時に出すよ」ってずっと言ってた曲なんで入れたんだ。
これは難産だった曲。全部弾き直しで作ってるんだけど最初カバー扱いにする気はなくて「弾き直すから大丈夫だろう」と思って作っていたら、弾き直すだけじゃなくてアレンジ加えないとダメって言われて。
いろいろやったんだけど、その曲の持つ魅力が半減しちゃってダメだった。それで「カバー扱いでいいからやろう」と進めてどんどん近付けていって出来たのがこの曲。
サンプリングのクリアランスの部分でかなり手こずって時間が掛かったし、迷惑かけちゃった1曲です。
盲目時代 (Blind Age 2006) [Feat. 響言奏]
'97年かな、ケンセイ(DJ Kensei)くんの「ILL VIBES」ってテープに入ってる曲。その時はソロでもないし、ブッダでやるにはそぐわない内容だと思ってずっと寝かしてた曲。
当時、地方に行って、その土地土地の子たちに会うと「いつ出すんです?」って言われ続けてた曲です。いつか出そうと思ってたんで、ちょっとだけ書き足してサビを入れてまとめたもの。
今もソロのラッパーという意識はないけど、当時はソロで何かを出そうって気はなかったから。
D.L's Midnight Theme Pt.3
アルバムを作ろうと思ってた5、6年も前から「エンディングはこれにしよう」と決めてた。
オレは音に関してはいつも直感で「コレとコレ足して作りたいな」と考えてるから特に理由はないんだけど、漠然とアルバムはこうなるべきだと考えてた中で「最後はこれで締めたいな」と決めてたんで。
タイトルは後付けで、1も2もあるから3も作ろうと思ってた。何か寂しくてエンディングっぽいじゃないですか?
全体をどこか哀愁漂う感じのアルバムしたかったというのもあった。ついでに(アルバム全体の)プロダクションの話をすると、ブッダの時はもう100%自分の我を通してたんだけど、今回のものに関しては少しひいてる。
音の質感にしてもブッダの時はよりローファイでミドルレンジを強調してハイとローがあんまりはっきりしてないような音作りを好んでたんで、なるべく目指してもらってた。
今回はD.O.Iくんに、キラキラした感じもかなり出してもらってて、ハイを切らずにバランスよくやってもらってる。あと、最近はっきりわかったんだけど、D.O.IくんがD.O.Iくんという人の感覚を通してミックスしたものは、それがSoulheadだろうと、オレのだろうと、Muroのだろうとすべて拡張されて覚醒されるものに最終的に仕上がるということで、良いものがさらに良く増幅されるメガホンのような効果を生むということです。
わかるヤツが他のものと聴き比べると一目瞭然でわかるはず。連係プレイもバランスよくやってて、2006年っぽくやってる。頑固親父じゃなくなってきてるよ(笑)。この曲を聴いてると10分くらい後には‥
※以上、オンライン版Source Japanより引用
参考作品
The Album (Admonitions) (2006) / Dev Large(デブ・ラージ)
もうRAPはしないと言っていたが、Kダブとのビーフに触発されてリリースされた。リスナーとしてはうれしい誤算。
トラックは文句のつけようがない。長く聴ける。
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作品解説
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全曲解説:「病める無限のブッダの世界」Buddha Brand(ブッダ・ブランド)
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ひとつひとつの楽曲に思い入れがあるのがわかる。 -
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ヒップホップ発祥の地をめぐっての抗争。 -
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